世の中は一人の行動から変えられる

岩佐 真山さんの小説『そして、星の輝く夜がくる』では、後半、震災の「風化」の問題に迫っています。東日本大震災から3年経った今、真山さんは風化についてどのように感じていますか?

真山 昨年の夏、被災地に行ってまずいなと思ったのが、草が生え始めていたことです。

岩佐 草ですか?

真山 もともとは瓦礫があって、さらに津波でヘドロだらけだった場所に、雑草が生え始めていた。そうなるとなにが起きるかというと、その場所は被災地ではなく「空き地」に見えるようになってしまうんです。日本中どこにでもある過疎に悩む村の空き地です。

岩佐 なるほど。言い方は悪いですが、震災直後の風景は、それ自体がコンテンツだったという側面はあったと僕は思うんですよね。だけど、そこに雑草が生え、どこにでもある空き地になってしまったと。

真山 たぶんマスコミも世間の人も、震災から3年の節目で一つの区切りをつけてしまったと思うんです。そうすると当然、他の過疎で悩む自治体の人たちから「東北だけじゃなくて自分たちにもお金を回してくれ」という不満が出てくる。だから被災地を「空き地」にしてしまうのは非常にまずい。

岩佐 同感です。それを防ぐためには、少しでも景色に変化を生んでいく必要があると思っています。ビジネスなのかコミュニティーなのかはわかりませんが、外から見て変わりばえがあるように見せていかなければいけません。

【後編】世界で戦える東北の産業づくりに向け<br />東京オリンピックは「チャンス」だ真山 仁(まやま・じん)
小説家。1962年大阪府生まれ。新聞記者、フリーライターを経て、2004年『ハゲタカ』でデビュー。2007年に『ハゲタカ』『ハゲタカ2』を原作とするNHK土曜ドラマが放映され話題になる。地熱発電をテーマにした『マグマ』は2012年にWOWOWでドラマ化された。 最新作は『そして、星の輝く夜がくる』(2014年3月7日刊、講談社)。その他の著書に、日本の食と農業に斬り込んだ『黙示』、中国での原発建設を描いた『ベイジン』、短篇集『プライド』、3.11後の政治を舞台にした『コラプティオ』、「ハゲタカ」シリーズ第4弾となる『グリード』などがある。公式サイト http://www.mayamajin.jp/

真山 これからは「なにもできないから助けてほしい」ではなく、「東北は変わろうとしている。だから助けてほしい」という意識にならなければいけないと思います。
 でないと、6年後に東京オリンピックが開催されることが決まったいま、東北のことを気にかける人はさらにいなくなってしまう可能性がある。

岩佐 僕は「震災」はさっさと風化すべきだと思っているんですよね。もちろん震災から得た教訓は忘れてはいけません。震災の教訓をどう残していくかという問題は、小説のなかでも語られていました。

 しかし、「震災」自体は日本全国が忘れて、前に進まなければいけないと思っています。ある東北の方が、「こんな時に東京オリンピックをするなんて」と話していました。そうではなくて、「東京は東京で頑張ってください。東北はもっとすごいことをするので」という意識にならなければいけません。

真山 世の中は一人では変えられないというのは嘘で、一人の行動から変えられます。ただ、一人で変えられる部分は少しだけなんですよ。だから岩佐さんのビジネスは、これからが根気の見せどころになると思っています。だんだんと岩佐さんのやっていることが当たり前になり、「ありがとう」と言われなくなるのが理想です。なかなか動かない東北の状況のなかで、岩佐さんのようなどこでもチャンスをつかむことができる優秀な人が、どれだけ根気強く続けることができるかが大事になってきます。