下請けの人間ですよ

 注湯された金属が、砂型のなかで冷えて固まった鋳物を、型をばらして取り出す、いわゆるバラシ場では、舞い上がる砂塵のなかで、二人の作業員が黙々と働いていた。
 安全帽の下は防塵眼鏡と防塵マスクで、顔もよくわからない。作業服も砂塵をかぶって白く変色している。

「ひどいね、ここは……」

 思わず沢井が顔をしかめる。

「はい、ファンを取り付けたり、いろいろ環境改善の手は打っているのですが」

 岡田の返事の途中から、渋谷が引き継いで言う。

「あの2人は当社の社員ではありません。下請けの人間ですよ」

 下請けの人間なら、どうでもよいというのか──沢井は納得できないまま、その作業員を見つめていた。

「さあ、時間がないから、岡田君、次へ……」

 渋谷にうながされて、バラシ場から次の仕上棟に入る。
 ここからは仕上課だ、と岡田が言う。

 大小さまざまな形状の鋳物があちこちに山積みされている。
 その山の間で、グラインダーを使ってバリを削ったり、不良部分を削ったあとを溶接で肉盛りし、その盛り上がった部分を削って平らにしたり、人びとが忙しく身体を動かしている。

 金属粉が飛散するため、グラインダー作業員も、安全帽の下でほとんど顔が見えない。

「真夏は暑くて作業が大変でしょうな」

「おっしゃるとおりですが、建家全体を冷房するのはコスト高になりますし、ご覧のようにファンで風を送って我慢してもらっています。
 実は……ここの作業員も大半は下請けの人たちです」