だが、長年鋳物で食ってきた中高年の人びとに他の仕事を、というのもまた悲劇か。
 それなら、何としてもこの会社を黒字にして、一刻も早く、少しでもマシな状態で働けるようにするしかない。

 それがこの会社の経営者としての俺の責任だろう。

 沢井はようやく納得しかけてきた。
 ボロボロのトイレのなかで、初めて何かが強く身体の奥から突き上げてくるのを感じていた。

 同時に大企業のキレイゴトのなかで育ってきた自分の甘さを、痛烈に思い知らされた。
 親会社の取締役の選任に洩れたことに対するしこりは根深いもので、そう簡単には消えはしない。
 だが、その一方で、沢井は太宝工業という会社の現実のなかに、次第に引きずり込まれていた。

 俺はこの会社の社長なのだ。
 ここで働く230名の人びととその家族の生活が俺にかかっている。

 こんな状態は長いこと放っておけない。
 早く黒字にしなければならない。
 それができなければつぶしたほうがいい。

「黒字浮上」、「1年以内に」が、沢井の心のなかで次第に重味を加えていた。(第6回につづく)


<書籍のご案内>

【プロローグから第1章までを公開!(5)】<br />俺が甘かった…<br />大企業エリートの知らない過酷な現実

『黒字化せよ! 出向社長最後の勝負』

実話をもとにした迫真のストーリー!
人が燃え組織が燃える! マネジメントの記録

■ストーリー■
大企業で役員目前だった沢井は、ある日突然、出向を言い渡される。出向先は万年赤字の問題子会社。辞令にショックを受けつつも、1年以内に黒字化することを決意した沢井だが、状況は想像以上に悪かった。やる気のない社員、乱雑で老朽化の進む職場…。しかし、新しく人を雇ったり設備投資をするような予算はない。今ある人材、今ある設備で黒字化できるのか。(本書は、『黒字浮上! 最終指令』〈小社刊・1991年〉を改題・改訂したものです)

【目次】
♦プロローグ  出向内示 ──黒字化せよ、さもなくば清算だ
♦第1章 赴任【7月】 ──あきらめきった無気力な社員たち
♦第2章 「オレがやる、協力する、明るくする」【8月】 ──改革が始まる
♦第3章 本音のコミュニケーションとストローク【9月】 ──社員の士気を高める方法
♦第4章 会社は社員とその家族の幸せのためにある【10月】 ──沢井社長の経営哲学
♦第5章 がむしゃらに頑張って何トンできる?【11月】 ──瞬間最大風速をつかめ!
♦第6章 赤字の正体【12月】 ──絶望の先に答えがある
♦第7章 新しい年、新しい社章【1月】 ──三か年計画の発表
♦第8章 ベテラン社員、ついに動く【2月】 ──組織が生まれ変わるとき
♦第9章 月産200トン体制に向けて【3月】 ──人が燃え、組織が動く
♦第10章 黒字浮上【4月】 ──人はみな能力を秘めている
♦エピローグ 黒字達成までをふり返る ──同時並行多面作戦の展開

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