「へえ、そんなことがあるのかね」

「あります。そう珍しいことではありません。納期がきて、トラックに積もうとすると、1ロット30個のうち28個しかない。
 どうなってるんだって探すんですが、これが鋳物ですからね。事務所で書類を探すように、パラパラと紙をめくるなんてわけにはいきません。
 下請けの連中はたぶん知っているんでしょうがね、どのへんにあるのか。知らん顔ですよ」

「どうするのかね、そんなときは……」

「しょうがないから、大特急再鋳込みです。それも2個だけ作ってまた不良品を出すといけないから、3個とか4個鋳込む。そのなかから2個、良さそうなのを選んで、仕上げます。もちろん、残業、公休出勤当たり前です」

「ふーむ」

「一方営業のほうは、納期遅れですからユーザーさんに平あやまり、おわびで貼りつきです。新規の受注どころではありません。こんなことで黒字になるはずないでしょう」

「だが全部が全部そんなことをしているわけではないだろう」

「もちろん、全部ではありません。数でいえばごく一部です。でもその一部が、全体の工程を乱してしまうのです。
 私のところなどは週間計画はおろか、朝作ったその日の計画が順調にそのまま進むなんて珍しいくらいですよ。
 それもこれも前工程の鋳造課の技術さえ良ければこんなことにはならないんですがね」

「うーむ」

 沢井は思わず絶句した。話半分と聞いてもかなりのものだ。
 鋳造課、仕上課の雑然とした現場の光景が頭に浮かんだ。
 よし、これを少し突っ込んでみるか。

 それまで無作為に面談の対象者を決めていた沢井は、翌日、前工程の鋳造課長・阿部勇二を指名した。(第8回へつづく)


<書籍のご案内>

【プロローグから第1章までを公開!(7)】<br />なぜ当社は赤字なのか?<br />――仕上課長の考え

『黒字化せよ! 出向社長最後の勝負』

実話をもとにした迫真のストーリー!
人が燃え組織が燃える! マネジメントの記録

■ストーリー■
大企業で役員目前だった沢井は、ある日突然、出向を言い渡される。出向先は万年赤字の問題子会社。辞令にショックを受けつつも、1年以内に黒字化することを決意した沢井だが、状況は想像以上に悪かった。やる気のない社員、乱雑で老朽化の進む職場…。しかし、新しく人を雇ったり設備投資をするような予算はない。今ある人材、今ある設備で黒字化できるのか。(本書は、『黒字浮上! 最終指令』〈小社刊・1991年〉を改題・改訂したものです)

【目次】
♦プロローグ  出向内示 ──黒字化せよ、さもなくば清算だ
♦第1章 赴任【7月】 ──あきらめきった無気力な社員たち
♦第2章 「オレがやる、協力する、明るくする」【8月】 ──改革が始まる
♦第3章 本音のコミュニケーションとストローク【9月】 ──社員の士気を高める方法
♦第4章 会社は社員とその家族の幸せのためにある【10月】 ──沢井社長の経営哲学
♦第5章 がむしゃらに頑張って何トンできる?【11月】 ──瞬間最大風速をつかめ!
♦第6章 赤字の正体【12月】 ──絶望の先に答えがある
♦第7章 新しい年、新しい社章【1月】 ──三か年計画の発表
♦第8章 ベテラン社員、ついに動く【2月】 ──組織が生まれ変わるとき
♦第9章 月産200トン体制に向けて【3月】 ──人が燃え、組織が動く
♦第10章 黒字浮上【4月】 ──人はみな能力を秘めている
♦エピローグ 黒字達成までをふり返る ──同時並行多面作戦の展開

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