麹町経済研究所のちょっと気の弱いヒラ研究員「末席(ませき)」が、上司や所長に叱咤激励されながらも、経済の現状や経済学について解き明かしていく連載小説。嶋野と末席からケンジへの熱いレクチャー。前回内容を受け、「自由主義がダメなら共産主義って、あまりに極端じゃないですか?」というケンジの疑問に2人が絶妙な(?!)役割分担で回答。(佐々木一寿)

「自由主義経済って、理想的に上手くまわればスゴイけど*1、なかなかいつもそうなるわけではなくて、場合によっては取引が滞って、それが最悪の場合は不況や恐慌に繋がってしまう*2、ということはよくわかりましたが」

*1 いわゆるセイの法則が成り立っている状態。詳しくは前回の内容を参照

*2 セイの法則は現実的にはなかなか成り立ちにくい。詳しくは前回の内容を参照

前回までの嶋野主任研究員たちの説明を手際良くまとめるように、大学生のケンジは続ける。

「それを解決しようと、セイの法則を実現するための『強制的な全量買い』を行うにあたって、自由主義を捨てちゃって、共産主義になった国があって*3、それで大恐慌を乗り切れたのはよかったとしても、なんだかやり方が極端な気もするのですが…」

*3 共産主義による計画経済下では、みんなで計画的に生産されたものは、みんなのおカネで買い上げる。詳しくは前回の内容を参照

 前回の内容を300字程度でまとめきった甥の理解度に満足しながらも、嶋野は試すように言ってみる。

「みんなが平等に幸せになれるのであれば、まあそれもいいんじゃないか。なんていったって、大不況に怯える必要がなかったんだから」

「うーん、でも、その代償で自由がなくなるのはイタい気が…。服も好きなのを買えないんじゃ、僕はあんまり幸せじゃないかも…」

 そうつぶやくケンジを目の当たりにした叔父の嶋野は、慌ててフォローを試みる。

「幸せって、人によって違うものだからね、マルクス主義に共感できたとしても、なにも無理に共産主義国を建国しなくてもいいんだよ、ケンジは…」