避けては通れない等外米の活用
<獺祭 等外>に込められた思い

桜井 新たな試みでいえば、私たちは<獺祭 試>という低アルコール製品の3回目の仕込みが終わったところです。これは文字通り、実験的商品で、旭酒造にとって新たな酒の世界を切り開く意味を持っています。

 普通に考えれば、一番精米歩合の黒い(高い)50%でやるべきかもしれませんが、それでは私たちにとって意味がない。旭酒造のすべてを象徴しているといえる<獺祭 磨き 二割三分>の新たな品質的可能性が切り開けないと、実験する意味がないわけです。今回の<試>の原料は、<二割三分>の精米で23%まで米を磨いていったとき、「粒をそろえるため」にふるい落とした米――つまり、非常に<二割三分>に近い米なわけです。これは従来、<獺祭 純米大吟醸50>の掛米(もろみの仕込みに用いる米)に充てていました。ですから、純米大吟醸と表示できなくもないのですが、品質向上の可能性を広げるため、あえて純米大吟醸の表示も外して、実験的に造っています。

佐藤 すべては<二割三分>につながる試みなんですね。

伝統産業であっても、伝承産業ではいけない<br />革新を追い続けることこそ日本酒の伝統だ旭酒造の桜井博志社長

桜井 初回の<試>は、まずどれだけ<磨き二割三分>に近づけけるかを実験しました。続いて、2回目と3回目は「低アルコールの純米大吟醸」に挑戦しました。2回目は、パンチに欠けるという意見が社内からは上がりましたが、将来性を感じる品質の方向性でした。3回目は、うまくまとまっていましたが、「少し甘くて酸があって」それで「パンチのなさを補っている」、言わば“ありがちな”低アルコールの酒で将来性を感じない酒質でした。まだまだ「純米大吟醸としての低アルコール製品」という域には達しておらず、試行錯誤の途上のお酒です。

佐藤 私たちも低アルコール製品の<天蛙>を出していまして、同じ味ならアルコール度数が高い必要はない、という信条をやはり持っています。さすがに生酒の場合は15度以下になると品質保持に不安が生じますが、火入れを行っている製品については15度を下回っています。

桜井 おそらく、過去にはアルコール度数が高いほうが、日本酒業界にとって好都合だったからですよね。17度ぐらいまで高くなると、味のうんぬんよりアルコールのインパクトが勝ってしまう。しかも、その類の酒を飲まれると、アルコール度数が低くて味のバランスのよい酒のうまさを分かりづらくしてしまうから厄介です。

佐藤 少し話は変わりますが、<試>と同じく試作段階という意味では、等外米を使った酒も出されていますよね。

桜井 <獺祭 等外>という、そのままの名前です(笑)。

 農家ではつねに5~10%程度は規格外の等外米が出てしまいますので、それらの活用について酒蔵も知らぬ顔は決してできません。(獺祭の原料である酒米の)山田錦の生産量は右肩下がりで来ましたから、今は栃木や茨城、新潟などの農家さんに個別に増産をお願いしている状況下、それぞれ個別の目標契約量は1万俵という大きなロットになりますから、発生する等外米は500~1000俵にものぼるわけですよね。日本酒が米を原料として造る以上、等外米のリスクを農家さんだけに負わせるのではなく、私たちが買い取らせて頂くことにして、それで造ったお酒なんです。

佐藤 秋田県産米を使用する新政にとっても、等外米の使い道に関する問題は避けて通れません。私たちも<獺祭>と同じく純米酒にこだわってきたので(注:酒税法上、等級米を原料としない場合は「純米」表示できなくなる)、今まで等外米への対応は普通酒を手がける別の酒蔵を紹介するにとどめていたのです。ですが、今年から個人の農家さんとより一層深いお付き合いするようになったのを機に、等外米を直接引き受けることにしました。これで何を造るか、私たちにとっても大きな課題です。

桜井 今後の社会を見据えれば、単に不要だからと切り捨てるのではなく、きちんと有効に使えたらいいですよね。しかも、最近のお客様は、こちらがきちんとした理念を示しながら製品を提供すれば、それに必ず応えてくださいます。