「晴れの日のお酒」として
日本酒は復権を果たせるのか?

佐藤 桜井社長の著書『逆境経営』にも書かれていましたが、かつての日本酒の立ち位置は「晴れの日のお酒」だったわけですよね。先日、ある地元の酒蔵で引退されたベテランの杜氏さんに聞いたところ、彼が蔵に入った戦後まもなくは、二級酒ですら「晴れの日のお酒」であって、日ごろ飲んでいたのは、秋田という土地柄もあって、もっぱらドブロクだったそうです。戦後、日本酒は「日用品としての酒」として再出発したのですが、酒に弱い日本人の体質的にはビールのほうがよりマッチしており、次第にシェアを奪われてしまったのだと思います。

 実際に試していただく前から、価値あるものとして手にとっていただけないと、われわれ造り手としては非常に辛い。ワインの場合、テーブルワインから超高級なものまでいろいろあるという認識のもとに皆さん選んで飲まれるわけで、日本酒の場合も「晴れの日」にふさわしい製品も出てきている、ともっと知っていただきたい。その意味では、<獺祭>が純米大吟醸にしぼって展開されたことで、日本酒がふたたび「晴れの日の酒」に回帰する流れを後押ししてくださっていると思います。

桜井 日本酒の場合、「晴れの日のお酒」として長年買って頂けた時代があって、そういう環境に胡坐をかいた部分もあったのではないでしょうか。結局、本当においしいお酒を造らなければ、お客様に「晴れの日のお酒」として選択して頂けないんですよね。今後ますます、品質面でも「晴れの日のお酒」にふさわしい日本酒を再構築しなければならないと思います。

佐藤 お酒にかける予算のなかで、最近はワインより日本酒の比重が高くなってきたというデータもあるようです。だとしても、地方の中小蔵元が生き残っていくためには、各々の個性を発揮したうえで、どんどん世界に出て行くべきだろうとは思います。これも<獺祭>が先鞭をつけてくださったところですが。

桜井 今は、日本酒がアルコール飲料全体の6%のシェアしかもっていない、マイナーな弱者になっている現実を直視しなければいけないと考えています。過去40年間にわたって消費量が落ち続けてきた業界なのだから、よほどの天変地異がない限り、下落傾向に歯止めがかかることはないでしょう。しかも、市場規模が3分の1に縮小する間に、酒蔵はほぼ半数までの減少でとどまったわけで、つまりは根本的な変革をせず縮みあって生き残ってきたわけです。その事実から目をそらさず、業界の行く末よりも、自分の酒蔵がどうするべきなのか改めて考えるべき局面にきているのではないでしょうか。ただし、こういう市場が縮小していく局面は悪い面だけではなく、業界内の秩序に変化が生じて、私たちのようなかつての負け組みにもチャンスが巡ってくるものです。

佐藤 日本酒に限らず、あらゆる伝統産業は廃れていく傾向にあります。そして、やがては伝承が途絶えていきます。

桜井 伝統産業であっても、決して“伝承”産業になってはいけないと思います。特に、日本酒は500年にわたって研鑽を積み、つねに革新し続けてきたことにこそ本質があるのではないでしょうか。

佐藤 確かに、冒頭で触れた昔の技法ではありませんが、おっしゃるとおり日本酒は本当に革新の歴史を積み重ねてきて今があるわけですよね。
僕は大学卒業後に酒蔵を継がず、いったんはジャーナリストとして活動したのちに、日本酒の魅力に取りつかれてひとりのファンとして日本酒業界にきました。新しい試みに取り組むなかで、業界のしがらみを感じることもありますが、現会長である父は陰から黙って見守ってくれているので感謝しています。

桜井 よく私はいうんですが、手形を切ったのは父親でも、それを落とすのは息子です(笑)。だから、自分のやりたい道をとことん突き進むのが一番だと思いますよ!

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