株式レポート
5月14日 18時0分
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別れても好きなひと - 広木隆「ストラテジーレポート」

優しい男を信用してはいけない。必ず優しくなくなる時が来るからだ。 (村上龍)

信条にとらわれないのが信条

僕は、「あなたの信条はなんですか?」と尋ねられると、「信条にとらわれないで生きること」と答えている。

プライベートと仕事では、相当スタンスが違う。プライベートでは、かなり気ままに過ごしている。「自由」が好きだ。なにごとからもFreeでありたいと願っている。無論、いい大人だから、「自由」でいるためには「責任」が伴うということも重々承知している。

一方、仕事はかなりRigid(リジッド:硬直的、厳格、堅実)である。20年に及んだバイサイド(運用会社)での仕事で、もっとも気に懸けていたことは、Consistency (一貫性)である。ファンドマネージャーの運用スタイルには一貫性がなくてはならない。運用スタイルとは自らの投資哲学や投資の理念が反映されたものだから、ころころ変わるようなものであってはならない。今日はバリュー(割安株)、明日はグロース(成長株)なんてあり得ない。

常に巧くいく(超過リターンが獲得できる)スタイルなどはあるわけがない。だから、自分のスタイルが相場の流れに合わない時、いうなれば逆風が吹いている時というのも往々にしてあるもので、そういう時はじっとその逆風に耐えなければならない。当然、パフォーマンスは悪化する。そうした短期的なパフォーマンス劣後を回避するために、次の運用期間にどの運用スタイルが最も高いパフォーマンスを獲得できるかを予測し、相場の局面に応じてスタイルを切り替えていくアプローチもある。それをスタイル・ローテーションというが、そんな都合の良いやり方が巧くいったという話を聞いたことがない。

セルサイド(証券会社)のストラテジストとなった今でもConsistent (一貫的)であろうと思っている。自らのスタンスを堅持し、ブレないでいることが重要だ。相場が上がってくると強気になったり、その反対に下がってくると弱気になったり…。そんなことでは、この商売、務まらない。

著書『ストラテジストにさよならを』の最終章で、そしてまた4月7日付レポート「まちぶせ」でも、「逆張りは狙ってやるものではない」と書いた。自分の原理原則に忠実に行動していれば、期せずして「逆張り」になる。自分のスタンスを堅持していれば、そのうちに相場のほうが勝手にブレるからである。

別れられないひとびと

しかし、時には、見方を柔軟に、かつ大胆に変えることも必要だろう。「馬鹿と死者だけは決して自分の意見を変えない」(ジェイムズ・ラッセル・ローウェル)という言葉を以前も引いたが、あまりにも意固地に自分の見方に拘泥していると相場を見誤る。

下手なトレーダーはポジションよりも先に奥さんと離婚する(つまりポジションと結婚する)。出来の悪いアナリストは自らカバーする銘柄と恋に落ちる - これはトレーダーやアナリストといったひとたちの「生態」をよく言い表した言葉である。

厚生労働省の「人口動態統計」によれば、日本人の1年間の離婚件数は約24万件。およそ2分に1組が別れている計算だが、なぜかマーケットでは「別れられない」ひとが多い。

相場は常に正しい、というのがマーケットで生きる者の金科玉条。しかし、ジョージ・ソロスくらいの大物になると、「市場は常に間違っている」と言えるのだろう。大物投資家になればなるほど、世間の常識の逆をいく。「愚者は卵をひとつのバスケットに入れるから落としたときに全て割ってしまう。賢者は決して卵をひとつのバスケットに入れない」というのが投資の王道、すなわち分散投資を説く常套句だ。ところがウォーレン・バフェットに言わせると、「本当の賢者は、卵をひとつのバスケットに入れて、それを落とさないようにするのである」。そう言われては身も蓋もない。

これまでさんざん刷り込まれてきた考え方を変えるのは難しい。ケインズでさえ、「この世で難しいのは新しい考えを受け入れることだけでなく、古い考えを捨てることである」と言っている。

だが、ここは見方を変えるべきだろう。日銀の追加緩和についてである。
視点の切り替えが必要

各種サーベイを見ると、いまだに7-9月に追加緩和を見込む観測が多い。グラフ1は追加緩和の予想時期を市場関係者に尋ねたQUICKの月次調査の結果である。その背景は、デフレ脱却なんか到底無理、少なくとも日銀のターゲットである2%のインフレ達成なんて絶対に無理という思い込みがあるからだろう。追加緩和が必要、というのが前提になっているから、追加緩和があれば株も買われ為替も円安になるが、追加緩和がないとなると株安・円高 ― というシナリオが多くの市場参加者のアタマのなかに刷り込まれている。一種のBrain Wash、文字通り「洗脳」だ。よって、日銀の金融政策決定会合のたびに、勝手な緩和期待が盛り上がり、現状維持で失望売りというドタバタ劇が繰り返されることになる。さらに言えば、そこに短期筋の仕掛けが入る。彼らは日本がデフレから脱却するか否かなんてことには興味がない。追加緩和の思惑で相場が動けばいいだけだから、市場の思惑に乗じて短期売買を繰り返す。その結果、相場の振幅が大きくなって市場のかく乱要因になる。



僕は先日出演したテレビ東京のニュース番組で「視点を切り替えるべきだ」と述べた。どういうことかというと、前述した通り、初めに追加緩和の有無があり、それによってデフレ脱却の成否とマーケットの趨勢が決まるという思考プロセスになっているのが問題だと指摘した。

本来は、ちゃんと経済の状況をチェックして、デフレ脱却に向かっているのかどうかを判断し、その結果が思わしくなければ初めてそこで追加緩和の有無が検討されるべきだ。つまり日本経済がデフレから脱却できるならば、追加緩和は必要ないということである。目標はデフレ脱却であり、金融緩和はそのための手段の一つであることを今の相場は忘れてしまっているかのようだ。

デフレ脱却が果たせるなら追加緩和は不要。追加緩和がなくても日本経済が望ましい方向に向かっているということだから、それを好感して株価が上昇する - それが本末転倒でない議論であり、(時間はかかるが)そういうシナリオが実現するだろうと考える。

デフレ脱却は可能か

ではデフレ脱却は可能なのか?コアのCPIは前年比1.3%まで上昇した。これをもってデフレ脱却はほぼ達成が見えたと言っても差し支えはないように思う。悲観論者の主張は、「これまでのインフレ率の上昇は円安による輸入物価の上昇で、その頼み綱の円安もこのところは横ばいだから、ここでCPIの上昇も頭打ちになる」というものだ。

しかし、必ずしも円安頼みだけでインフレが起きているわけでもない。3月の有効求人倍率は前月から0.02ポイント上昇し1.07倍となった(グラフ2)。16カ月連続で改善し、2007年6月以来、6年9カ月ぶりの高水準だ。最近では人手不足の話題がひきもきらない。牛丼屋や居酒屋のチェーン店は人手不足のため店を閉めるところも頻出している。そうした人手不足感が強いのは外食産業や建設業など、労働環境が比較的過酷な業務の一部であることは事実である。また、パートや非正規といった求人が多く、正社員の事務職などでは依然として需要不足・供給過剰の状態が続いている。雇用のミスマッチは解消していない。



しかし、労働市場というのは必ずしも完全に分断されているわけではなく、流動性があり連続的な部分もある。企業はパートや非正規で人が確保できなければ、正規雇用を増やそうとするし、一部の産業で人手不足が強まるならば、必ず他の産業にしわ寄せが生じる。玉突き現象というか、引っ張り合いというか、どこかで需給が逼迫すれば、それは時間的なラグを伴うにせよ、いずれ全体に波及するだろう。

失業率は3.6%まで低下した。経済状態に左右されない構造的な失業が存在することを考慮すると、これはほとんど「完全雇用の水準」と言っていい。完全雇用がほぼ達成され、有効求人倍率が1.07と求職者より求人のほうが多ければ、当然のように賃金には上昇圧力がかかる。それがインフレ率を押し上げる。
事実、大手企業の定期昇給とベースアップ(ベア)などを合わせた月額の賃上げ額は平均7697円で1998年以来の7千円台となった。16年ぶりの水準だ。賃上げ率も前年(1.91%)を大きく上回り2.39%で15年ぶりに2%を超えた。

この雇用状況の改善は、デフレ脱却悲観論者のもうひとつの主張、すなわち「消費増税の影響で景気が腰折れし、デフレ脱却が遠のく」という懸念に対しても十分な対抗要件となるだろう。実際のところ、増税後の世の中のセンチメントは暗くない。暗くないどころか、むしろ楽観的過ぎるとさえ思えるほどだ。いろいろなメディアの報道はあるが、直近発表された公的なデータとしては 内閣府が発表した4月の景気ウォッチャー調査が挙げられる。消費増税後の足元のDIは当然のように大幅低下となったものの、先行き判断DIは早くも急回復を見せた。前月比15.6ポイント上昇の50.3と5か月ぶりに上昇。震災直後の11年4月を超える大幅回復で、増税による景況感の落ち込みが一時的であることをうかがわせるものとなった(グラフ3)。



インフレはどうして起こるか

こうした経済の状況に鑑みれば、着実にインフレ圧力は高まっていると言えるだろう。たとえ「2年で2%」が達成できなくても、大きな問題ではない。そんな細かい数字を云々するよりも、もっと大きな経済全体のダイナミズム(方向感)のほうが大切だ。失われた15年の長期デフレを脱し、インフレの方向に向かっているという経済の基調が確認されることが重要である。そして、なによりも「景気は気から」である。

マネタリストの大御所、ミルトン・フリードマンは「インフレーションとはいついかなる場合も貨幣的現象である」と述べた。貨幣論の専門家、岩井克人・国際基督教大学客員教授は常々「貨幣とは、それが貨幣であるとみんなが信じるから通用する自己循環論法で成り立っている」と主張している。とすれば、インフレとは、ひとびとがみなインフレになると信じるかどうかにかかっていると言えよう。

グラフ4は、消費者物価の見通しに関する内閣府消費動向調査である。見通し(物価が上昇すると回答した人の割合)が実際のCPIに先行する格好で上昇しているのが見て取れる。ひとびとのインフレ見通しが高まると、その後に実際の物価上昇が起きるのである。



一般の消費者が肌で感じるインフレの兆し。その嗅覚は数十人のエコノミストの予想より、案外正確だったりするものだ。

長く連れ添った自分のビュー(見方)を捨てるのはとても難しい。トレーダーがお気に入りのポジションを解消したり、アナリストが自ら惚れ込んだ銘柄に売り推奨を出すのは、なかなかできることではない。仮にできたとしても、忘れられずに、未練が残るものだ。金融緩和に慣れ切った市場は、いつまでも金融緩和を恋しがる。「終わったはずだ」と言い聞かせても、「もしかしたら、また復活があるのではないか」と期待してしまう。洗練された米国市場でさえそうなのだ(1月14日付ストラテジーレポート「未練」ご参照)。なかなか別れた相手を忘れることはできない。

冒頭に引いた村上龍の言葉、「優しい男を信用してはいけない。必ず優しくなくなる時が来るから」という警句は、蛇足を承知であえて加筆すれば、「優しい(だけの)男を信用してはいけない」ということだろう。優しいだけが取り柄では、ともに世の中を生きていくには頼りない。惚れるなら、強さとか、厳しさとか、勇気とか、もっと他の魅力を持っている男に惚れろということだ。

男は変わる。中央銀行も変わる。優しくなくなる時も来る。女にも。市場に対しても。

だから、相手に求めるものは、優しさだけであってはいけない。強さや厳しさもそこに加えよう。それは同時にまた、相手からも僕らが要求されているものであることを忘れてはならない。僕らも強く、厳しく、あるべきであり、そうなるべきなのである。


(チーフ・ストラテジスト 広木 隆)

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