今から1年前の2013年4月、川崎重工業と三井造船の経営統合話は、川崎重工側の事情で破談となった。その直後に、旧来型のビジネスモデルの転換を図ると同時に事業ポートフォリオを組み替える全社構造改革に踏み切った三井造船は、現在、さらに大きな挑戦を模索し始めている。元は船舶用エンジンの設計者で、今はグループ全体のチューンアップに乗り出す田中孝雄社長に聞いた。

三井造船社長 田中孝雄 <br />将来の成長エンジンは「海洋分野」たなか・たかお/1950年、福島県生まれ。
東北大学工学部を卒業後、三井造船に入社。主に船舶用エンジンの設計・開発などに従事し、29年間を玉野事業所(岡山県)で過ごす。98年、ディーゼル工 場技術部長。2009年、常務取締役兼機械・システム事業本部長。11年、代表取締役常務兼経営企画部門および人事総務部門担当。12年、代表取締役常務 兼経営企画担当。13年より現職。60~70年代の日本のフォークソングをこよなく愛する。イタリア好き。
Photo by Shinichi Yokoyama

――かねて造船業界には、新造船市場の需要が低迷して2013~14年にかけての手持ちの工事がなくなるという「2014年問題」が取り沙汰されていましたが、円高の是正が進んで各社の受注環境が好転したことから、危機は過ぎ去ったという雰囲気があります。ほんの少し前まで、業界全体で頭を抱えていたのが嘘のような展開です。本当にこの問題は解決したのですか。

 確かに、受注環境が好転したことにより、量的には解消されました。

 例えば、日本造船工業会の統計によると、13年の世界全体の新造船の受注量は1億143万総トンでした。過去数年は厳しい状況が続きましたが、現時点で当社は16年の前半まで受注を確保して「船台」(船体の建造・修理する設備)を埋めることができました。業界には、18年の商談をしている人もいます。

 しかし、近年は、世界全体の受注量の平均が5000万総トンの水準で推移していたことを考えれば、13年は一気に2倍以上に積み上がったことになります。これは、明らかに実際の需要を超えるものであり、1億143万総トンの中にはかなりの割合で“投機的な発注”が含まれています。ですから、単純に喜べる話ではありません。ちなみに世界で動いている現役の船は約10億総トンです。歴史は繰り返す、という予兆があります。

 また、量的には解消されても、質的には解消されていません。というのも、採算性の問題が残っているからです。手持ちの工事量が確保できたことにより、「船台が空になる」という最悪の事態は避けられましたが、リーマンショック後に需要が落ち込んだ11~12年にかけて、仕事欲しさに安値で受注した船舶の採算性の悪さが重くのしかかってきます。それが顕在化するのは、実際に船が完成する13年後半~15年前半にかけてになるでしょう。