昨年の三中全会で、改革深化の方向性を打ち出した習近平だが、本当に改革を進めることができるのか。中国政治に詳しい東京大学大学院の高原明生教授は、習近平の「改革力」に疑問符を付ける。(「週刊ダイヤモンド」副編集長 前田 剛)

表面的で中途半端な習近平の「改革力」<br />――高原明生・東京大学大学院教授東京大学大学院・高原明生教授 Photo:JIJI

 反腐敗による摘発は、前常務委員の周永康周辺や人民解放軍上将の徐才厚にまで及び、緊張感が漂っています。習近平の権力基盤固めは確かに進んでいます。ただし、習近平の改革姿勢に対する評価は、現時点では二分されています。

 先の三中全会で表明された改革深化の方針についても、手放しで評価する人がいる一方で、肝心なところには手をつけていないとみる人もいます。私は後者ですね。

 規制緩和や金融自由化の方向性は示されています。しかし、例えば、温家宝が掲げてきた3大改革(国有企業改革、所得分配改革、政治改革)のうち、国有企業改革については、今後新たな国家プロジェクトは民間にも開放するとしています。一見、改革しているようですが、これでは国有企業の数は変わらず、非効率な経済が温存されることになります。

 また、分配改革については税制の改正が本丸ですが、累進課税や相続税の創設には手をつけていません。政治改革についても、共産党内部ではまだ必要性は認識されていないように見えます。おそらくもっと経済成長率が落ちてからでないと政治改革は進まないでしょう。

 改革は表面的で、本質的な部分は温存されているのです。八方美人的にさまざまな勢力の間でバランスを取ろうとしていますが、結果的に習近平は党内の左派(守旧派)も右派(改革派)も満足させることができていません。

 では、党内の権力基盤が固まれば、習近平は改革を断行できるのか。これにも2通りの見方があります。断行できるという見方と、能力がないからできないという見方です。