橘玲の日々刻々 2014年5月19日

埼玉スタジアムではなぜ人種差別の権利がないのか?
[橘玲の日々刻々]

 サッカーJ1の人気クラブ浦和レッズは、一部のサポーターが「ジャパニーズ・オンリー」という横断幕をスタジアム内に掲げたことでJリーグから無観客試合の制裁を受け、クラブ側は当該サポーターを無期限入場禁止にすると同時に、ホーム、アウエーを問わず、すべての横断幕やゲートフラッグの掲出を禁止しました。

 サッカーの本場であるヨーロッパではアフリカ出身の選手に対する人種差別的行為があとを絶たず、FIFA(国際サッカー連盟)は傘下のクラブに人種差別撲滅のための断固たる行動を求めています。今回の処分はクラブにとってきわめて厳しいものですが、浦和レッズのサポーターグループ11団体が「当事者としての責任を認識」して自主的に解散するなど、批判や反発の声はほとんど聞こえてきません。Jリーグには家族連れの観客も多く、子どもに不快な横断幕を見せたいひとはいないでしょうから、これはファンやサポーターの良識でしょう。

 その一方で、東京・新大久保や大阪・鶴橋のコリアンタウンでは「死ね」「殺せ」などと連呼するヘイトスピーチが止まず、「支那・朝鮮抜きの大東亜共栄圏」を目指す団体はナチスドイツのハーケンクロイツ(カギ十字)を掲げたデモを行なっています。ゲルマン民族の人種的優越を理由に、ナチスドイツは600万人ものユダヤ人を強制収容所などで殺戮しましたから、その旗を公然と掲げるのは人種差別行為そのものです。

 埼玉スタジアムでは「ジャパニーズ・オンリー」という横断幕だけでクラブもサポーターも厳しい制裁を受けました。それに対して新大久保や鶴橋でははるかに露骨な人種差別行為が容認されているばかりか、彼らはメディアに対しても堂々と自分たちの正当性を主張しています。

 なぜこのようなダブルスタンダードが起きるのでしょうか。

 それは、浦和レッズが興行主となる埼玉スタジアムは私的空間で、新大久保や鶴橋は公共空間だからです。私的空間には所有者(管理者)がおり、利用者は一定の規則に従わなければなりません。一方、公共空間は日本国憲法によって結社と言論・表現の自由が保障されているので、どのような政治的主張も認められるのです。

 私的空間では、その所有者は自分(たち)の利益を最大化しようとしています。ほとんどのひとは、こうした利己的な場所よりも「公共」のほうが素晴らしいと問答無用に決めつけますが、これは本当でしょうか。


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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