アイフォンの人気で痛手を負った携帯電話メーカーは数多あるが、モトローラの場合は、その存在自体がかすんでしまったと言っても過言ではないだろう。

 モトローラと言えば、1996年に携帯電話市場で27%のマーケットシェアを占め、その後、小型でシャープなデザインの「レイザー」を大ヒットさせ、業界不動の地位を築いたように見えたものだった。

 ところが、それ以降のモトローラは、まるで枯れるように衰弱していった。そして近年では、ごく基本的な機能の携帯電話を量産するだけの巨体に成り下がったイメージとなっていた。

 3Gやスマートフォン(多機能携帯電話)の波にも乗り遅れ、何年もの間、モトローラから画期的な製品発売のニュースを聞くことはなかった。同社は、レイザーの成功体験を忘れることことができず、その再現を目指すものの、決してそれを達成できないような体質になっていたのだ。

 そのモトローラが11月初め、決死の覚悟で新製品を発売した。「ドロイド」だ。グーグルが中心となってオープン開発を進める携帯OSアンドロイドを搭載し、アイフォンにはない画期的なフィーチャーを多数盛り込んだ。実際、アメリカ国内での評価はかなり高く、モトローラが息を吹き返すかもしれないと予想されている。

 驚くことにドロイドは、たった1年で製品化にこぎ着けた。多くの製品で開発の遅れが日常化していたモトローラにとっては、予想外のスピードだ。

 ドロイドの開発を牽引したのは、モトローラが2008年8月に迎えた新しいトップ、サンジェイ・ジャその人だ。通信チップメーカーのクアルコムでCOO(最高執行責任者)を務めていたジャは、前CEO(最高経営責任者)のエド・ザンダーが去った後、共同CEOの地位についた。同社COOのグレッグ・ブラウンと任務を分け、同時にモバイル・デバイス事業全体のCEOも兼任する。