洋菓子店の店長はどう対応したか?

「ロールケーキを食べて、家族4人が食中毒だ。見舞金として60万円を請求する」

 洋菓子店の店長を務める篠山健太郎は、柴田の言葉に耳を疑った。

「どういうことですか?」
「カビがはえていたんだよ。ほら、レシートもある」
「そんなはずはありません。なにかの間違いでしょう」

 篠山が店長を任されてから10年以上になるが、これまで一度も食中毒など起こしたことはない。とはいえ、お客様をむげに追い返すのも気が引ける。

「ご賞味いただけなかったのは残念です。できたてのロールケーキがございますので、召し上がってください。割引券も入れておきますので、ご利用ください」

 篠山はこう言って、包みを差し出した。しかし、柴田は受け取らない。

「こんなものでは納得できん!」
「そうおっしゃられましても、製造過程でカビがはえることは、まず考えられません」

 篠山はロールケーキの作り方についても説明したが、柴田は執拗に食い下がる。

「もし、俺が保健所に駆け込んだら、お宅は営業停止になるぞ」

 プロ顔負けの脅し文句だ。篠山は一計を案じた。

〈ここは、あの作戦でいこう〉