経営×ソーシャル
ソーシャルメディア進化論2017
【第55回】 2014年6月3日
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武田 隆 [クオン株式会社 代表取締役]

【國領二郎氏×武田隆氏対談 2】
自分勝手な人は、世の中の役に立っている!?

「わがままの社会的効用」が実現するフリーミアムビジネス

「所有から共有の時代へ」。そんな言葉がここ数年のうちにあちこちで聞かれるようになった。「シェア」のビジネスモデルは、顧客やユーザーとつながるソーシャルな時代になったという前提、そして欠乏・飢餓感から解放されているという時代背景があるからこそ成立する。
國領二郎教授をお迎えしての対談第2回目では、「所有から共有へ」という流れによって生まれるビジネスモデルと、私たちの生活に訪れる変化について考えていく。

「共用」がこれからのビジネスモデルのテーマ

武田 國領先生のご著書『ソーシャルな資本主義』には、ソーシャルメディアの登場によって、情報が媒介となってヒトやモノがつながり、経済社会も大きく変化すると書かれています。「情報が切れていた近代」と「つながる未来」とでは、ビジネスモデルも大きく変わっていくのでしょうか。

國領二郎(こくりょう・じろう)
慶應義塾常任理事、慶應義塾大学総合政策学部教授。1982年東京大学経済学部卒業。日本電信電話公社入社。1992年ハーバード大学経営学博士。1993年慶應義塾大学大学院経営管理研究科助教授。2000年同教授。2003年同大学環境情報学部教授。2006年同大学総合政策学部教授。2009年同大学総合政策学部長。2013年慶應義塾常任理事。主な著書に『オープン・ネットワーク経営』(日本経済新聞出版社、1995)、『オープン・アーキテクチャ戦略』(ダイヤモンド社、1999)、『オープン・ソリューション社会の構想』(日本経済新聞出版社、2004)、『ソーシャルな資本主義』(日本経済新聞出版社、2013)がある。

國領 はい。まず、近代では経済がどのようにまわっていたのかを整理してみましょう。

 情報が切れていると、お客さんを追いかけることができませんよね。ですから、お金をもらったら関係も終わってしまいます。これが成り立つのは商品のすべての権利を「所有権」というかたちで集約して、渡すということが前提だったからです。どう処分するかも含めたさまざまな権利を「所有権」というものに集約し、対価と交換したらもう関係は終わりというのが、近代の経済の基本でした。

武田 近代は、村社会的な人間関係を貨幣のやりとりに転換していったわけですね。たとえば「焼きそばが食べたい」と思ったとき、物々交換の世界では、豚肉をつくっている人に直接会わなければなりません。その人が欲しているものを自分が持っていないと物々交換は成立しないし、また、その豚肉の所有者との関係が良好でなければ交換してくれないかもしれない。小麦にしても同様ですし、特濃ソースに至ってはかなり複雑な交渉が要求されます。一皿の焼きそばができあがるまでに、相当ドラマチックなコミュニケーションが必要になります。

 対して貨幣経済では、特別な人間関係に依存する制限もなく、ほしいときにほしいものを買うという行為が可能です。豚肉をつくっている人に会えなくても、特濃ソースを手に入れるために複雑な交渉をしなくても、コンビニに行けば数百円で「焼きそば」を手に入れることができます。

 経済学者の岩井克人先生が、物々交換の時代は信用している人にしか譲れなかったけれど、貨幣の誕生でマーケットができたことにより、お金さえ渡せば自由な取引ができるようになったというお話をされていました(本連載第28回岩井克人氏との対談参照)。しかし、所有権を売買できるようにした反面、人と人との関係性は希薄になっていった。

國領 そうです。情報システムとしても、それが効率的だったんですね。

 ところが、時代が変わり、つながるようになってくると以前では機能していたものが機能しなくなる。たとえば、不動産の権利は所有権や借地権など、いまだにややこしい権利関係がありますよね。そして今、テレビドラマなどのコンテンツが、そういった時代にそぐわない状況になっています。

武田 版権の問題でしょうか?

國領 はい。ネット配信などをするとき、出演者のひとりがNGを出すともう不可能なんです。商品の権利が複雑な入れ子構造になってしまっている。この解決は、所有権の考え方から抜け出さないと難しいでしょう。

武田 以前、この連載に出てくださった松岡正剛さんが、ヨーロッパでは公と私の間に「共」という概念があるという話をされていました。「所有」と対になるのは、やはり「共有」なのでしょうか?

國領 「共」は重要な概念です。いま、いろいろなかたちで中古市場が発達してきていますよね。ひとつの製品がつくられてから壊れるまでの間に使う人の数が結果的に増えれば、所有とは切り離して考えられる。会員の間で特定の自動車を共同利用する「カーシェアリング」ってありますよね。あれは、所有権がはっきりしているんですよ。

武田 カーシェアリング事業者の持ち物ですよね?

國領 そう。それをいろいろな人が借りる。レンタカーと似ていますが、あらかじめ登録した会員だけが借りられることや短時間の利用時間単位が設定されていることが違います。

武田 カーシェアリング事業者が所有しているものを、会員が共有しているわけですね。

國領 ややこしいですが、そうです(笑)。本で言うと、ブックオフなどの業態が進出したため、新古書店で買った本を読んですぐ売るということもできますよね。

 所有権移転のモデルはいろいろあって、結果としてたくさんの人が共同で利用しているということが起こっている。なので「共有」ではなく「共用」と考えたほうがわかりやすいのかな、と思います。排他的利用権、他の人には使わせないのかどうかというところで、「有」より「用」と言ったほうが今日的ではあります。まあ、強いて言えば、くらいの違いですが……。

武田 「共用」をベースとしたビジネスモデルというのは、他にどういうことが考えられるでしょうか。

國領 ネット上の音楽配信のようなものは、無理やりそれぞれのコピーに所有権を付与していますが、現実にはひとつの音源をみんなで使いまわしていますよね。それも共用のひとつのかたちでしょう。



武田 隆(たけだ・たかし) [クオン株式会社 代表取締役]

日本大学芸術学部在学中の1996年、前身となるエイベック研究所を創業。クライアント企業各社との数年に及ぶ共同実験を経て、ソーシャルメディアをマーケティングに活用する「消費者コミュニティ」の理論と手法を開発し、複数の特許を取得。その理論の中核には「心あたたまる関係と経済効果の融合」がある。システムの完成に合わせ、2000年同研究所を株式会社化。その後、自らの足で2000社の企業を回る。これまでに森永乳業、ライオン、資生堂ジャパンをはじめ、300社超のマーケティングを支援。ソーシャルメディア構築市場トップシェア(矢野経済研究所調べ)。2015年、ベルリンと大阪に支局を開設。著書『ソーシャルメディア進化論』は松岡正剛の日本最大級の書評サイト「千夜千冊」にも取り上げられ、ロングセラーに。また、CSR活動の一環としてJFN(FM)系列ラジオ番組「企業の遺伝子」のパーソナリティも務める。1974年生まれ。海浜幕張出身。


ソーシャルメディア進化論2017

花王、ベネッセ、カゴメ、レナウン、ユーキャンはじめ約300社の支援実績を誇るソーシャルメディア・マーケティングの第一人者、クオンの代表取締役 武田隆氏が、ダイナミックに進化し続けるソーシャルメディアの現在と未来に独自の視点から迫る!

「ソーシャルメディア進化論2017」

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