資本主義社会の中で、「正義」であるということ

藤野 真面目さです。特に「事業が社会にもたらす『良い部分』を最大限に引き出すこと」への真面目さ。この点において、白木さんは普通の起業家とは少し違う気がします。基本的に、事業に対してまっすぐじゃない経営者はいません。ただ、社会的な意義と会社経営はなかなか両立しづらいもの。社会的な部分に目をつぶる方がずっと楽になる。
 でも、白木さんは資本主義社会が世の中に与えているマイナスの部分をいかに少なくしていくか、もっと言えば、いかに良い部分を引き出すか、という部分にとても真摯ですよね。その真面目さは日本の経営者の中でもトップだと思います。

白木 ありがとうございます。自分が当たり前だと思うことを当たり前にやるしかないと思っていて。美しいジュエリーをつくるにあたって、宝石の産地が分からないことや児童労働がまかりとおっていることは、私にとっては当たり前ではなかったんです。

藤野 一方で、白木さんは「社会的に良いこと」にあぐらをかいていないのが素晴らしいと思います。……資本主義社会の中では、常に正義が勝つわけではないですよね。

白木 はい。

藤野 短期的には「不正義」が勝つことも、まかりとおってしまうこともある。その中で、「自分のしていることは正義のはずだから、不正義に負けちゃいけない」と思って競争していくしかない。けれど、その目的は「勝つ」ことではなく、「選ばれる」こと。

白木 まさに、私も同じことを考えています。私たちはひとつのジュエリーブランドとして、選んでいただきたいと思っています。不幸を生み出さないエシカルなジュエリーですよ、ということをアピールして買っていただこうとはまったく思っていないんです。

藤野 そうですよね。

白木 ではどうするかというと、デザインや価値、ブランド全体を見て「ほしい」と思っていただくようなジュエリーをつくり続けるしかなくて。

藤野 消費者は厳しいですからね。デザインや価値、価格より社会性を優先するような消費者はほとんどゼロに近いと言っても過言ではない。その中できちんと逃げずに競争して、選択してもらえるよう努力をするというのは、大きな挑戦だと思いますよ。

白木 こうやって藤野さんに背中を押していただくことで、本当に勇気が出ます。鼓舞されるというか。私も事業を行う上で迷うこともたくさんあるので。

藤野 もちろん、儲けだけを重視していくのであれば、もっと別の経営方針をとった方が良いかもしれない。事業拡大のスピードを上げるため、店舗出店はじめさまざまな戦略を変えるべきかもしれない。それでも、白木さんは自分の意志で、収益と社会性のバランスを考えながら、一歩一歩確実に進もうとされている。経営者としてかなり難しい挑戦を続けていると思います。だから応援したくなってしまうんですよね。良い会社はいつも「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」ですから。


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