日本特有の対人関係を弱みとするか、強みに変えるのか

河合 アメリカもそういう部分が結構あります。私たちが学生だった頃のアメリカでは、優秀な人は理系に進まない、エンジニアにはならないという風潮がありましたよね。ヨーロッパ、とくにイギリスなんかもそうです。

高橋 そうですね。ただ、ドイツでは、優秀な人が結構理系に進みましたよね。

河合 ドイツはそうですね。でも最近は、MITやカリフォルニア工科大学のように、かつては“ガリ勉”と言われていたIT系の人たちが積極的に起業するようになって、理系の学生に対する評価は大変高いです。それとともに、アメリカが科学のイノベーションで再び世界を制覇してきました。会社の社長も理系が増えてきています。

高橋 そう。いまは変わったよね。何かを専門的に学ぶモチベーションができていると思います。理系の授業は、たとえば空気力学1・2・3とあれば、1がわからないと2と3は絶対にわからない。それは積み上げだからです。一方で、文系の授業は、1個わからなくてもほかの試験はできてしまう仕組みですよ。

 でも本来は、マーケティングも、財務も、金融理論も、ベースからしっかりと積み上げないと本当の理解にはつながらないはずなんです。ちょこちょこっと応用を学んでも役に立たない。基礎理論から積み上げなければいけないものだと思います。

河合 そうですね。たとえば、京都大学では「ジャングル方式」と言われて、ジャングルでおいしい果物だけを食べる、つまり教養教育ではおもしろそうな授業だけ履修することができます。しかし、学びの順序を考えなければいけないという反省があり、私が在籍していた国際高等教育院ができました。

高橋 もう一つ、前々回も触れましたが、日本の就職活動でGPAは聞かれません。

河合 アメリカでは、GPAが3以上でなければみんなが行きたいような企業には入れませんね。

高橋 ヨーロッパでもGPAが一定レベルないと卒業できないのかな?

河合 ヨーロッパの大学を卒業することは結構厳しいですよ。1年目で50%が落第してしまう大学もあると聞きました。日本の大学は、卒業させないと大学が問題だとされてしまいますが、ヨーロッパでは、まともな成績を取れない人を卒業させることが大学の問題になってしまいます。

高橋 いま、日本の大学は少子化で学生不足です。だから、留年して、もう1年授業料を支払ってもらうのは助かるという傾向も出てきている印象があるけどね(笑)。いずれにしても、一番困るのはドロップアウト。2年や3年で、ついていけなくなって辞めますというのは、顧客を失うことですから。だから、手取り足取りでも、授業料を払って通い続けてもらうことが取りあえずは重要なんじゃないかな、日本の大学では。

 とくに私立大学では、いわゆるメンタル系のアドバイザー、カウンセラーがいることも多いですよ。それは、対人関係がうまくいかずにドロップアウトしてしまう学生が結構が増えてきているから。単に授業の内容についていけないことだけが問題ではないんです。親からしても、そういう大学は嫌がるので、とても真剣に対応し始めています。

河合 日本は大学入学時点であまり面接を行いませんよね。やっていけるかどうかは入るまでわからない。

高橋 日本の場合、対人関係は強みでもあり、弱みでもあります。「空気を読まない、あの子は」という話は、海外ではあまり聞きません。腫物に触るようでありながら、いつも“つながっている感”がないと不安だという、複雑な心理がありますね。結果的に、大学の中でも孤立する学生が結構増えてしまう。

河合 ヨーロッパの大学生に比べると、日本の学生は受験勉強などの影響で社会経験が少なく、子どもっぽく感じることがあります。集団生活にも慣れていない。グループワークを増やすことがその解決につながると思っていますが、授業だけではなく、大学生のときに社会勉強する時間も必要かもしれません。

高橋 そうだね。

河合 お話は尽きませんが、大変貴重な機会をいただき、ありがとうございました。

高橋 ありがとうございました。


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