「今年度も一度も出席することができませんでしたので、大変申し訳ないのですが、この3月をもって脱会させていただきたく存じます」

 「何をおっしゃいますか! 出席していただかなくてもいいんですよ~。御社のような企業が、会員として名を連ねていただけるだけで意味がありますから!」

 当時、全社をあげて経費削減を進めていた我が社では、入会している団体も見直しすることになっていた。

 そんな中で、「継続する必要ナシ」と判断したF協会。十数年前にいわゆる「おつきあい」で、すでに退任した役員が、入会してしまったときから、ただただ年会費を納め続けてきた。

 そのF協会の理事と、我が社の秘書課長とのやりとりだ。

 「そう言われましても、我が社でもこうした活動全般を見直しておりまして、F協会さんの活動目的と、弊社のコンセプトとは乖離していることもございますので、やはり脱会させていただきたく存じます。まったくお役に立つこともできませんので」

 「いいんですよっ! 年会費さえ払っていただければ。正直、御社にやめられたら困るんですよ」

 F協会の理事の本音がポロリ。その一言が、そのやりとりを聞いていた新人秘書を憤慨させた。なんとしてもやめさせないという態度のF協会に腹を立てたその秘書は、上司である秘書課長に向かって声を荒立てた。

 「私、納得できませんっ! 意味のない団体に入会し、決して安くはない年会費を払い続けなくてはいけないなんて!」

 周囲が息を呑んで、見つめる。

 「もうしばらく様子を見ることにしよう」

 「なぜですか! なぜやめることができないんですか? うちになんのメリットがあるんですかっ」

 合理的に物事を考える彼女にはなかなか納得できないことらしい。

 「十数年前、小さな企業だった我が社にとっては、ささやかにも『おつきあい』として意味があったのかもしれないし」

 「でも今、現実的にはまったく意味がないじゃないですかっ」

 「企業としての地域とのつきあいというのもある。もう少し様子を見るしかないだろう」

 新人秘書は、悔しそうに口を結んだ。そして納得できないまま、年会費を納める経理処理を行ったのだ。

 私にも彼女の気持ちがよく理解できた。そんな彼女を見て思い出した。私も秘書課に配属になって間もなくのころ、同じような疑問をもったものだ。

高い「交際費」は
なんのため?

 社会人経験の少ない私たちにとっては、「いったいなんのために……?」と思うことって意外と少なくない。