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6月10日 17時0分
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イエレン議長の憂鬱―イエレンダッシュボードに見る米国労働市場の実態― - マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部「米経済の「今」を読む -経済指標動向-」

非農業部門雇用者数(前月差) 5月 +21.7万人 市場予想 +21.5万人 前月 +28.2万人(下方修正)
失業率 5月 6.3% 市場予想 6.4% 前月 6.3%


■波乱なしの雇用統計
6日に雇用統計が発表され、非農業部門雇用者数は前月から21.7万人の増加と市場予想(21.5万人増)をわずかだが上回る堅調な結果だった。前月(28.2万人増、5月発表値から0.6万人下方修正)からは伸びが大幅に鈍化したが、これは前月分に寒波による落ち込みからの反動増という嵩上げ要因があったためで、問題ない。また、失業率は6.3%で前月と横ばいだった。


さらに、2月から5月まで非農業部門雇用者数は4ヶ月連続で前月差20万人以上増加した(2月:22.2万人 3月:20.3万人 4月:28.2万人 5月:21.7万人)。4ヶ月連続での20万人超えは1999年10月〜2000年1月以来約15年ぶりである。また、5月の非農業部門雇用者数の総数は1億3846万3千人と2008年1月の水準を上回り、リーマン・ショックで失われた約900万人の雇用を取り戻した。

以上のように労働市場の改善は順調に続いている。「物価の安定」と「雇用の最大化」というFRBに与えられた2つの使命(デュアル・マンデート)のうち、少なくとも後者は着々とその達成に向けた道を歩んでいるとも思われる。それでは元々雇用についての研究が専門の経済学者で、労働市場の改善を極めて重視するイエレン議長は、順風満帆な労働市場の改善を手放しで喜んでいるのだろうか。実は、そうでもない。

■イエレンのダッシュボード
イエレン議長が労働市場の実態を見極める上で重視していると言われる9つの経済指標がある。それらの指標は「イエレンのダッシュボード」と呼ばれている。本レポートではこの9つの指標を金融危機発生前の水準(2004年から2007年の平均とした)と比較してご紹介し、各指標から米国の労働市場の回復度合いを見ていきたい。

(1)非農業部門雇用者数(前月差) Nonfarm payrolls ○危機前の水準を回復
5月  +21.7万人  2004-2007平均  +16.2万人

雇用統計の中で最も注目度の高い、農業部門を除いた米国の労働者数の総数を示す指標。前述のように同指数は堅調な改善を続けている。

(2)失業率 Unemployment rate ×危機前の水準を未回復
5月  6.3%  2004-2007平均  5.0%

失業率は失業者(職に就いていないが働く意欲のある人)÷労働人口(15歳以上の働く意欲のある人)で算出される。本指標も順調に改善を続け、FRBが2012年12月以降ゼロ金利政策の実施期間の目安(フォワード・ガイダンス)としてきた「失業率6.5%」を下回る水準まで回復している(2014年3月のFOMCで同フォワード・ガイダンスを撤回)。


(3)労働参加率 Labor force participation rate ×危機前の水準を未回復
5月  62.8%  2004-2007平均 66.1%

労働参加率とは15歳から64歳までの人口(生産年齢人口)のうち、労働人口(15歳以上の働く意欲のある人)が占める割合を指す。失業率は失業者÷労働人口で計算されるので、実質的な雇用者数が増加していなくても、職探しを諦めてしまった人が労働人口から除かれれば失業率は改善する。労働参加率は金融危機後に一貫して低下傾向を続けているが、人口動態の変化などの構造的要因も背景にあるとされる。


(4)広義の失業率 U-6 underemployment rate ×危機前の水準を未回復
5月  12.2%  2004-2007平均 8.8%

通常の失業者に加えて、「本来は正社員としての労働を希望しているが職が見つからないためやむを得ずパートタイマーとして働いている人」や、「職探しを諦めてしまったため(2)の失業率にはカウントされていない人々」を潜在的失業者とみなして算出した失業率。低下(改善)基調にはあるものの、金融危機前の水準には戻っていない。


(5)長期失業者の割合 Long-term unemployed share ×危機前の水準を未回復
5月 34.6%  2004-2007平均 19.1%

失業者のうち、27週(約半年)以上職に就けていない人の割合を指す。イエレン議長は3月のFOMC(公開市場委員会)後の会見の際に、「長期失業者の割合はとりわけ高く、低下させるのが非常に難しい。特に注目してみている指標の1つである」という趣旨の発言を行っている。


(6)(自己都合の)離職率 Quits rate ×危機前の水準を未回復
3月 1.8%  2004-2007平均 2.1%

自主的に仕事を退職した人の割合を指す。年齢や健康上の理由から自ら仕事をやめる人もいるが、一般的には本指標が上昇するということは別の会社に転職しようとしている人の割合が増えていると思われるため、労働市場の流動性が増してきていると判断される。金融危機前の水準は回復できていないが、金融危機後に一時1.3%まで低下してから順調な回復過程にある。

(7)求人率 Job opening rate ×危機前の水準を未回復
3月 2.8%  2004-2007平均 3.0%

 当該月の最終営業日の求人数の労働者数に占める割合。

(8)採用率 Hires rate ×危機前の水準を未回復
3月 3.4%  2004-2007平均 3.8%

 労働者の中で当該月に雇われた人の占める割合。

(9)解雇率 Layoffs and discharges rate ○危機前の水準を回復
3月 1.1%  2004-2007平均 1.4%

当該月に解雇された人数の労働者数にしめる割合。金融危機後、一時は1.9%まで上昇したが、現在は危機前の水準を下回る水準まで回復。


以上見てきたように「イエレンのダッシュボード」の多くは、改善基調にはあるものの未だに金融危機前の水準に戻っていない。イエレン議長は労働市場が回復しきっていない状況を「緩みがある」と表現している。量的金融緩和の縮小に着手している米国だが、「最初の利上げは2015年半ば以降」とされている背景の1つには、このように労働市場が回復しきっていないことが挙げられる。

イエレン議長は議長の指名会見で「あまりに多くの米国人が職を見つけられず苦しい生活を送っている。FRBにはできることがある。」と述べた。イエレン議長とFRBはその宣言通り労働市場の実態改善を慎重に見極めながら利上げのタイミングを図っていくことになる。利上げ時期を推測するヒントの1つとして、今後も折にふれてダッシュボードの9指標の変化をお伝えしていく。

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