ベトナム 2014年6月12日

過激な反中デモと、平静そのものの市民生活
その対比に見るベトナム人のしたたかな処世術

日本で15年間の編集者生活を送った後、ベトナムに渡って起業した中安さん。日本でも、悪化する中国との関係が大きく報道されるなか、ホーチミン市に住む中安さんには、あまり現実味が感じられないという。中安さんが見る今回の事態とは? そこに見えたのはベトナム人たちのしたたかさだった。

ホーチミン市の生活は平静そのもの

 ベトナムにおける中国への抗議行動については、既に、プロによる数多くの報道がなされており、私のような素人の出る幕は見当たらない。一方で、市井の一市民としてホーチミン市の路地裏で生活をしていると、ニュースで読む緊迫したベトナム情勢に、あまり現実味が感じられないのも事実だ。

 そこで今回は、私が見たホーチミン市の状況をお伝えしたいと思う。以下は、あくまでも私の個人的な体験であること、そして首都・ハノイと、私が住むホーチミン市では、事態のとらえ方にかなり温度差があることを、あらかじめご了承頂きたい。

「え? これが本当に反中デモの渦中にある町なのか?」

 この原稿を書いている6月2日現在、ベトナム最大の都市・ホーチミン市の街中は、拍子抜けしてしまうほど、普段通りの生活が営まれている。予備知識なしに当地を訪れた人は、反中デモがあったことすら気がつかないだろう。5月26日に中国漁船の体当たりを受け、ベトナム漁船が沈没するという、火に油を注ぐような大きな出来事があったにも関わらず、である。

 すでに各所で報道されているが、今回の経緯を少しおさらいしてみよう。ベトナムで反中デモがピークだったのは、5月11日(日)から13日(火)にかけてである。まず11日、その1週間前に発生した中国船とベトナム船の衝突事件を受けて、北部にある首都・ハノイの中国大使館前で、1000人以上が参加する大規模な抗議デモが行なわれた。南部のホーチミン、中部のダナンとフエでも同時にデモが行なわれており、反中デモとしては過去最大規模だといわれている。

 さらにこれが過激になったのが、週明けの12日、13日だ。13日には、ホーチミン市に隣接し、数多くの工業団地を抱えるビンズオン省において、2万人規模ともいわれる抗議行動が行なわれた。これに参加した群衆の一部が、工業団地内にある中国企業を中心とする外資系企業の工場を襲撃。設備を破壊するなどの行動に出たのだ。

 自国にお金をもたらす外資系企業に被害が出たことを政府は深刻に受け止めたのだろう、ほとんどすべての携帯電話に、ズン首相自らが抗議行動の自粛を呼びかける緊急メッセージを発信するなど、政府を挙げてデモの再発防止に力を入れている。また11日の翌週、18日にもデモを呼びかけるメッセージが、インターネットなどで発信されたが、政府側は大量の警察官を動員して、発生防止につとめた。ホーチミン市内では、少人数によるデモが試みられたが、すぐに事態は収拾されている。

 こういった政府の統制のお陰だろう、新聞などでの激しい論調とは裏腹に、市民生活は平静に見える。

ビンズオン省の新庁舎。新都心として開発された一角に建っている【撮影/中安昭人】

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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