今回は日本のインフラ部分を担う建設、不動産の2業種を取り上げる。建設業では2011年3月以降、デフレからインフレへと経済環境が急速に変化し、デフレを前提に受注した工事で採算が大幅に悪化する事態に至ったが、結果としての選別受注の効果がここにきてようやく現れてきた。足許の利益率は本来のリスクリターン対比で低すぎる、との見方がコンセンサスとなり、長期的には土木だけでなく、建築でも安定して2桁の利益率へと収斂して行くと期待。

 不動産は、リーマンショック後の景況感悪化を受けて、多くのビルオーナーは賃料を下げ過ぎたと考えており、一定の値戻しは期待できる。実際、足許で賃料上昇が加速している。一方、中期的には過去平均以上の供給があり、都心5区の空室率は中々4%を切る水準までにはならないと予想している。このため、中期での賃料上昇は平均でCPI(消費者物価指数)と同等水準の緩やかなものに留まろう。

【建設・不動産】<br />建設は施工能力、不動産は資産インフレがカギ握る <br />注目企業は鹿島、清水建設、三菱地所<br />――メリルリンチ日本証券リサーチアナリスト・姉川俊幸あねがわ・としゆき
1993 年3 月東京大学理学部卒、1999 年ジョージタウン大学経営大学院卒(MBA)。JREIT セクター、不動産セクター、建設セクター、住宅設備セクターをカバー。JREITセクターでは、カバレッジ14 社を含むJREIT 全社のリサーチに加え、デベロッパー動向、不動産賃貸市場動向、政策動向など幅広いリサーチを得意とする。建設セクターでは、カバレッジ以外の専門工事会社を含むテーマ性のあるリサーチに注力している。中央官庁、不動産投資・運用会社などを経て、2006 年2 月メリルリンチ日本証券入社。

業界構造: 建設、不動産とも市場は細分化。
不動産では大手の市場占有率上昇の傾向も

 建設、不動産ともに、市場は細分化されており、大手企業の市場占有率が非常に低いのが特徴である。

 建設セクターでは、土木トップの鹿島のシェアは大手50社の約8%、建設投資全体では約2%。建築トップの清水建設では大手50社中のシェアは約12%、建設投資全体に対しては約4%に過ぎない。2000年以降、公共事業が大幅にカットされる中で、大手の市場占有率は緩やかに上昇した。一方、建設投資は震災復興などにより2011年を大底に反転し、中小ゼネコンの仕事も再び増えてきた。豊富な工事案件を前に、建設会社側の主に建設技能労働者の人手不足がボトルネックになっている現状では、大手のみならず中小を含む施工能力に対するニーズが高まり、市場細分化が再び進むと考えられる。

 施工効率の良い超大型案件は大手ゼネコンの独断場である一方、建設は労働集約的で、相対的には規模のメリットが働き難い業界でもある。最近では、大手ゼネコンの市場占有率と利益率とはむしろ逆相関してきた。