たとえば同じ努力をしても正社員と非正規社員で格差ができてしまい、収入が少なくて不安定なほうは、結婚して子どもをつくって家族を持つこともそれを維持するのも難しくなります。詳細は、自著『「家族」難民』(2014年、朝日新聞出版)で述べましたが、「家族格差」につながっているのです。

「非正規やフリーターの人も努力すればいい」という人がいますが、それは裏を返せば「正規社員は努力しなくてもいい」ことが前提ですよね。つまり、同じ努力をしても格差はますます開いていくわけで、その結果として、経済格差と希望格差が固定化してしまっていることが日本の大きな問題です。

一時的な景気好転で構造は変わらない

——アベノミクスで景気好転の期待もあり、デフレ時代と比べて就職や収入状況が少しでも改善されるタイミングであれば、そうした構造が変わるチャンスはあるでしょうか。

 アベノミクス自体はいいと思いますが、一時的な多少の景気の善し悪しによって、不安定な雇用についている人たちの長期的な人生設計が変わるような構造的変化は期待できないと思います。たとえばインフレ傾向で正社員の一部のボーナスが上がったときに、非正規社員の賃金の時給が100円上がっても、不安定な非正規社員の地位を根本的に解決することになりません。

 一時的な景気上昇で人材不足も生じているようですが、不足しているのは仕事が不安定な介護や建築分野が中心と聞きます。私の専門(家族社会学)である“家族”起点の発想だと、たとえば土木作業員の賃金が多少上がったからといって、女性の多くが彼らと積極的に結婚したがるのか、というと甚だ疑問です。自衛隊婚活が流行っていますが、自衛隊員の収入がそれほど高くなくても長期的な安定が女性に受けているからですよね。

 確かに今年卒業した大学生は、長期的に安定した職を手に入れられる可能性が数年前よりはるかに高いわけですが、それも割合の問題にすぎません。たまたま今年がそうなのであって、来年からは分からないし、かつ、今まで就職できなかった人たちは放っておかれるのが実情です。

 「正規・非正規の安定性の格差」と、「新卒一括採用からこぼれてしまったら浮かび上がれない人が大多数」というこの2つを解決しない限り、構造的には変わりません。そして、それが変化する兆しは今のところ見えていません。

——昨今の学生さんをご覧になっていて、どんな業種への就職希望が多いですか。

 やはり公務員や安定した企業を希望する学生が多いし、女性は特に「長く働きたいから」と大企業の一般職を希望する学生が多いですね。

 大企業の総合職や中小企業の主力となって働いたりしたら、子どもがうまれたときに忙しすぎて辞めなきゃいけなくなると思っていますからね。その点、大企業の一般職を“準公務員”のように見ていて、結婚して子どもを育てるなら産休や育児休暇など制度も整っているし長く働けそうだ、別に出世する必要もないし、というわけです。昔は一般職といえば寿退社と相場が決まっていましたが、今は逆で、長く働きたい人が一般職を選ぶケースが多いようです。