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めちゃくちゃわかるよ経済学 シュンペーターの冒険編

対談では“賛成”、著書では“反対”。
「ロシア革命」に対する矛盾した態度のナゾ

坪井賢一 [ダイヤモンド社論説委員]
【第36回】 2009年2月18日
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 マックス・ウェーバーとの対話はもう1回あったらしい。「らしい」というのは、その対話の記録者が「第1次大戦後、1919年のウィーンで行なわれた」と書いているので、対話の期日に関しては怪しいのである。1919年にウェーバーとシュンペーターがウィーンで会うなど、ちょっと考えにくい。ドイツ帝国、オーストリア帝国の崩壊、共和制への移行、社会主義政策の議論、戦後経済混乱の収拾と、2人は1918年11月から1919年秋まで、混乱する両国政権の内部、あるいは政権のごく近くにいたからである。

 ただし、記録者が1918年のことを1919年だと勘違いしていたとすれば、このもう1つの対話記録の価値も高い。

 記録したのは社会学者ワルター・トリッチュである。第1次大戦後のウィーンで、シュンペーターとウェーバーを「初めて」引き合わせた、と書き出している(後述)。停戦は1918年11月だから、「戦後」は12月以降だ。この対話が「初めて」だとすると、1918年春の対話を紹介したフェリックス・ゾマリーの記録(前回を参照)が間違いということになるが、どう読んでもトリッチュに年代の誤りがあると思う。

 トリッチュによるこの記録にはほぼ同内容のものが2種類あるのだそうだ。1つは1953年にフランス語で発表したもので、これは大野忠男さんによる翻訳が存在する(※注1)。このフランス語の邦訳版には「何年に会った」、という確かな時制の記述はない。

 もう1つは1955年、つまりフランス語版の2年後にトリッチュが西ドイツの「フランクフルター・アルゲマイネ」紙に寄稿したドイツ語版である。このドイツ語版を樋口辰雄さんが全訳している(※注2)。

 樋口先生は詳細な注釈を付している。フランス語版もドイツ語版も内容はほぼ同じものだそうだが、細部に違いがあるという。なお、ドイツ語版をゲルト・シュレーターが英訳した記事が1985年に出ている(※注3)という。

 このもう1つの対話の内容を紹介しようと思ったが、かなり抽象的な議論で、ウェーバーの「原型論」に対してシュンペーターが「動学的」メカニズムを持ち出して反撃する、というものだ。本稿は経済学を中心にしているので詳細の紹介には踏み込まないので、関心のある方は樋口先生の全訳をご覧いただきたい。

興奮して自説を語るウェーバー
VS落ち着いて反論するシュンペーター

 1点だけ、最後のほうのくだりが面白いので引用しておこう。

 フランス語版ではこうなっている(大野氏による要約)。――やがてウェーバーが「1時間以上も一気に喋った」あと、シュンペーターが「落ちついた声で、はっきりと、サロンでの話し手のように」答えた――。

ドイツ語版全訳ではこうだ。――「1時間以上、この竜巻きが吹き続いた。(略)シュンペーターは不意に、落ち着き払った澄んだ声で語り始めた」――。

 1時間以上も興奮して自説を開陳するウェーバーの姿と、落ち着いて反論するシュンペーターの姿が目に浮かぶ。前回詳しくご紹介したゾマリーの報告と同じような展開だが、ウェーバーが席を立って出て行くことはなく、最後は穏便に終わったようだ。

 トリッチュが最初にこの記事を発表したのが1953年、ゾマリーの記録が出版されたのは1960年なので、かなり離れている。

 トリッチュは書き出しで「第一次大戦が終結した後」、ウィーンの「ブルク劇場の桟敷席で落ち合うことにした」と書いている。また、記事の最後では「ヴェーバーは翌年の春、その頃多数の犠牲者を出したインフルエンザに感染し、ミュンヘンにおいて他界してしまった」、とも記している。ウェーバーが死去したのは1920年だから、この対話は1919年だったと最後にもう一度念を押しているわけだ。

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坪井賢一 [ダイヤモンド社論説委員]

1954年生まれ。78年早稲田大学政治経済学部卒業後、ダイヤモンド社入社。「週刊ダイヤモンド」編集長などを経て現職。著書に『複雑系の選択』『めちゃくちゃわかるよ!経済学』(ダイヤモンド社)『浦安図書館を支える人びと』(日本図書館協会)など。


めちゃくちゃわかるよ経済学 シュンペーターの冒険編

「経済成長の起動力は企業家によるイノベーションにある」とする独創的な理論を構築したシュンペーターの発想の冒険行を、100年前のウィーンから辿る知の旅行記。

「めちゃくちゃわかるよ経済学 シュンペーターの冒険編」

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