丁寧に導入のステップを踏めるコンサルは
難しいプロジェクトでも成功確率が高い

村井 一方で、経営者が漠然としたアイデアをもっていて、それを実行するにしろ中止するにしろ覚悟を固めるためにコンサルティングを使う時というのは、成功確率がぐっと低くなります。なぜなら、経営者の主観を相手にしなければならないから。

 私は前職で海外法人の経営者だった時、「足場であるアジアの人材ビジネスを、何で外資にもっていかれてるんだ。我々こそやるべきじゃないのか」という熱い気持ちを、根拠や市場性とは全く関係なく持っていました。経営者というのは、極めて主観的な側面を持っているものなんです。でもビジネスの現場では、主観よりもむしろ客観や論理が常に要求される。

 だから経営者の主観を客観に置き換えるようなプロジェクトのニーズはすごく高いし、お金を出す価値もあるわけです。ところが、期待どおりの成果が得られるかというと、実際は非常に難しい。並木さんが最初におっしゃったような、「本当にありがとう」と言われた4、5件のプロジェクトというのは、経営者が正しいと思っていながら明確な根拠を示せずにいた想いをうまく形にできた稀有な事例だったのではないでしょうか。

経営者の想いを汲み取る感受性があるか?<br />それが、コンサルタントを雇う判断基準になるインタビュアーの並木裕太さん

並木 確かにそうかもしれません。私が見てきた海外のレジェンドと言われるようなコンサルタントたちは、次に開拓すべきは西か東かを問われた時、「西に行きたい」と考えている経営者に対して、その証明に尽力するのではなく、問いの設定の仕方や解の選択肢を経営者とともに検討し直し、「北という道もある」ということを言える人たちでした。経営者の想いを形にするコンサルティングの成功確率が低いのは、コンサルタントたちの側にも問題があるとお考えですか?

村井 “人”による―—というのは避けられない問題としてありますよね。私がコンサルタントを雇う時に見るのは、経営者の想いを汲み取る感受性がある人かどうかという点です。こちらの考えを耳にした時に、鳥肌が立つくらい共感してくれるかどうか。例えば一緒にバーベキューをするとか、丁寧に手間をかけて導入のステップを踏めるコンサルタントは、難しいプロジェクトでも成功する確率が高いように思います。私のような人間と仕事をする時は、どれくらい飲みに行けるかというのは非常に大事(笑)。どれだけ肝臓で仕事ができるか、これもコンサルの重要な要素だと思いますよ。

並木 それだけ深い関係を築くということは、発注者の側にも覚悟が必要ですね。村井さんのキャリアの中で、そういう付き合い方についてきてくれるコンサルタントはいましたか?

村井 正直なところ、あまりいませんでしたね。大きなファームのサラリーマン・コンサルタントは複数のプロジェクトを同時に抱えていて、投入する時間内でどれだけの実績を残せたかという生産性で評価される。彼らにとって私のような発注主は高い成果を上げる難易度が高いんです。むしろ、個人として活動しているコンサルタントの方が、時間や労力のかけ方に裁量があるから向いている。

並木 個人のコンサルタントも、村井さんのようなクライアントにこそ本気を出したいと思うでしょうね。