アラブ 2014年6月30日

教えて! 尚子先生
シリアの内戦はなぜ解決しないのですか?【中東・イスラム初級講座・第8回】

国内反体制派は団結できず、外部勢力も力足らず

 一般的に、アサド政権はシリア国内では少数派のアラウィー派(シーア派の一派:シリア人口の約12%)が主要なポストを占める、少数宗派政権だといわれています。確かに、現大統領は前大統領の息子であり、政権の主要ポストもアラウィー派で占められています。少数宗派の者たちが大多数のスンニ派を支配しているという形のために、反体制派はスンニ派の多数派が政権を握ることが「民主的である」とつねに主張してきました。

 けれども、シリアを分析した専門家たちはみな、シリアがアラウィー派の宗派政権であるとは主張しません。なぜなら、政権はアラウィー派の教義を広めようとはしておらず、政権を担っているバース党の主張は、アラブ民族主義、つまりアラビア語を話す者は宗教・宗派にかかわらず一つの民族であるという考え方に基づいており、教義上、スンニ派もキリスト教徒も排除してはいないためです。そのため、スンニ派などのアラウィー派以外の人々も議会や政党、軍・公務員などのポストを得ることで、政権と何らかの関わりを持っています。この状況こそ、軍がアサド政権を支持し続けていることと密接に関連していると考えられるのです。

 反体制派は、当初、「自由シリア軍」を結成し、団結しているかにみえました。けれども、各地で「司令部」が乱立して統制を失い、2012年夏以降、「自由シリア軍」は民衆からの支持を失っていきました。一方、アメリカなどが支援している、亡命シリア人らを中心とした「国民評議会」や「国民連立」も内部分裂してしまい、いまでは代表者の選出すらできない状態に陥っています。

 代わって戦闘の指揮を執るようになったのが「ヌスラ戦線」というイスラム過激派でした。「ヌスラ戦線」は2013年春ごろまで、戦闘の主力となっていました。けれども、実は「ヌスラ戦線」がアル・カイダ中の過激派の一派にすぎないという事実が明らかとなり、シリアの人々からの支持も、反体制派を支援している欧米諸国などからの支持も失ってしまいました。

 つまり、国内の反体制派は団結できておらず、また、外部勢力はイスラム系も欧米系も、シリアの人々の「受け皿」になりえていないのが現状です。

 この混乱した状況に拍車をかけたのが、2013年6月のレバノンのヒズボッラー(シーア派のイスラム主義組織でイランが支持母体といわれる)の参戦でした。ヒズボッラーはアサド政権を支援するために内戦に参戦しましたが、これに対抗してサウジアラビアや湾岸諸国が反体制派を支援したために、内戦に「宗派対立」という新たな要素が加わったかのように論じられました。

   ですが、そもそもアラウィー派はイスラム教とキリスト教が融合したような特殊な教義を持つため(断食・巡礼・モスクでの礼拝なし、クリスマスを祝うなど)、スンニ派からみても、シーア派からみても異端でしかありません。彼らはオスマン帝国時代にはイスラム教徒ではなく、「異教徒」として分類されていたほどです。ですから、この内戦をシーア派対スンニ派の「宗派対立」として理解するのには無理があります。ヒズボッラーはアサド政権がシーア派の一派であったから参戦したのではなく、参戦によって利益が得られると考えたために参戦したのです。

スークハムディーエ(ダマスカス旧市街)の入り口に掲げられた肖像画。左から、兄バーセル(事故死)、父ハーフィズ、バッシャール現大統領=シリア【撮影/安田匡範】

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