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めちゃくちゃわかるよ経済学 シュンペーターの冒険編

母の再婚相手は帝国の貴族

坪井賢一 [ダイヤモンド社論説委員]
【第8回】 2008年1月22日
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 シュンペーターの母親の再婚相手はSigmund von Kélerという退役した陸軍中将だった。姓名の発音は、ドイツ語読みならばジークムント・フォン・ケラーになる。フォンは貴族の証だ。爵位がないのでユンカーであろうか。結婚したのは1893年のことである。母は32歳、シュンペーターは10歳になっていた。継父のフォン・ケラー退役陸軍中将は65歳である。いよいよ少年シュンペーターはウィーンの貴族子弟のための学校へ通えることになったのである。母親がつかんだ大きなチャンスだ。

シュンペーターの継父
フォン・ケラーの経歴を探ってみる

 フォン・ケラーについては、シュンペーターのどの評伝(注1)を読んでも詳しい履歴はわからない。華々しい軍歴は出ている。詳しい資料が軍関係以外に残されていないのであろう。Sigmund von Kélerというスペルを見ると、eにアクサン記号が付いているのでドイツ語が語源ではない。Sigmundはドイツ人の名前にあるので、祖先が東欧からオーストリアにやってきたのかもしれない。

 どこから来たのだろう。片っ端から辞典を引いてみた。ドイツ語にアクサンは入れないが、いちおう独和辞典(注2)を引くと、やはりKélerはない。Kellerはある。これはケラーと発音し、「地下室」の意味である。地階レストランには「××ケラー」という店が多い。Kélerの発音もKellerに準じているようだ。

 ハプスブルク帝国の言語でアクサンが付くのは、ポーランド語、チェコ語、スロヴァキア語、ハンガリー語の4つだという。ポーランド語にはそもそもKéという語頭すらなかった。チェコ語には、Kéz(もしも・・・・・・でありさすれば)、という意味の言葉があった(注3)。他には見当たらない。ハンガリー語の辞典(注4)を開く。ハンガリー語にはKéという語頭で始まる単語がたくさんあった。ハンガリー語かもしれない。アクサンは音を伸ばす記号なので、ハンガリー語だとすればKélerはケーレルと発音する。

 あ、そうだ! ケーレルならばハンガリー人の作曲家の名前にある、と思い出した。CDを持っていたはずだ。(結局、探し出すまで3日かかった!)

 CDはこれだった。表題はLong Live the Hungarian! ハンガリー万歳!といった意味か。演奏はヤーノシュ・フェレンチク指揮ハンガリー国立管弦楽団。ハンガリーに関係する作曲家を集めた管弦楽小品集である。録音は1977年と79年。このCDは旧ハンガリー国営レコード会社フンガロトンが2006年に発売したものである。12人の作曲家による作品が収録されているが、10番目にKéler Béla(ケーレル・ベーラ)のUngarische Lustspiel -Ouvertüre(ハンガリー喜劇序曲)が収められている。ハンガリーの姓名表記は東アジアと同様、姓が前にくる。

 このCDのライナーノート(英文)によると、作曲家ケーレルは1820年にハンガリー王国バルデヨフ(Bardejov)に生まれ、1882年に独ヘッセンのヴィースバーデンで没している。指揮者としてもヨーロッパ各地で活躍していたのだそうだ。ドイツ語名をアダルベルト・パウル・フォン・ケラー(Adalbert Paul von Keler)という。あれれ、このケラー(ケーレル)もドイツ語では貴族(ユンカーを含む)のvonが入るようだ。横道に逸れるのをお許しいただいて、生地バルデヨフをウェブで訪ねてみる。

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坪井賢一 [ダイヤモンド社論説委員]

1954年生まれ。78年早稲田大学政治経済学部卒業後、ダイヤモンド社入社。「週刊ダイヤモンド」編集長などを経て現職。著書に『複雑系の選択』『めちゃくちゃわかるよ!経済学』(ダイヤモンド社)『浦安図書館を支える人びと』(日本図書館協会)など。


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「経済成長の起動力は企業家によるイノベーションにある」とする独創的な理論を構築したシュンペーターの発想の冒険行を、100年前のウィーンから辿る知の旅行記。

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