それでも、今の働き方でなかなか評価されないことに悩んでいるのなら、歯車社員になりきることも、選択肢のひとつに加えていいのではと考えます。その理由は、上司の指示通りに歯車のごとく働くことは、仕事の基礎能力を磨くための近道であり、結果として高い評価への近道になり得るからです。

成長に必要な「型」を身につけるには、稽古するしかない

 2011年に75歳で亡くなった落語家の立川談志の弟子である立川談春の著書『赤めだか』(扶桑社)に、立川談志のこんな言葉が残っています。

 「あのな坊や。お前は狸を演じようとして芝居をしている。それは間違っていない。正しい考え方なんだ。だが君はメロディで語ることができていない、不完全なんだ。それで動き、仕草で演じようとすると、わかりやすく云えば芝居をしようとすると、俺が見ると、見るに堪えないものができあがってしまう。型ができてない者が芝居をすると型なしになる。メチャクチャだ。型がしっかりしたヤツがオリジナリティを押し出せば型破りになれる。どうだ、わかるか? 難しすぎるか。結論を云えば型をつくるには稽古しかないんだ。」

 この言葉はとても含蓄のある成長理論を含んでいるということで、いろいろなところで引用されている有名な言葉です。私もよくこの言葉を拝借します。

 成長するためには型ができることが必要で、そのためには稽古しかない、という主張なのですが、その型とは、先人たちから伝承されるナレッジのことを指します。そして、先人たちのナレッジを受け継ぐためには、そのすべてを教えられる通りに覚えることです。まさしく歯車理論です。

 逆に考えれば、成長を阻害する要因は、未熟な頭で先人たちのナレッジにケチをつけたり、不要と決めつけたりして、すべてを受け入れないことにあります。ところが、表面的な個性がカッコイイと思われるようになった現代では、自分の意見を表に出すことがいいこととする風潮が強いように感じます。立川談志は、まさしくそのような考え方を戒めているのです。

 もう一度、立川談志の言葉を思い出してください。どの会社でも型破りな社員が欲しいものです。しかし、「型破り」の本当の意味は「個性的な型を持っている」ことではなく、「型がしっかり」していることだということをぜひとも覚えてください。これは、歯車としての経験を積み重ねることで「型がしっかり」身に付いた者こそが、「型破り」になれるということを示唆した重要な言葉だからです。