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事業撤退-「規模」から「効率」経営に舵を切った日本企業

真壁昭夫 [信州大学教授]
【第21回】 2008年3月11日
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 事業撤退とは、企業が既に行っている事業分野から退くこと、つまり、今まで行っていた事業を止めてしまうことだ。撤退という言葉の語感からすると、ネガティブに取られがちだが、企業がその分野で儲かっていなかったり、経営資源を効率的に使うことが出来ていない場合には、むしろ当然の経営戦略の1つと考えられる。最近、この言葉を新聞紙上で見かけることが多くなった。それは、わが国企業が少しずつ変わっていることを象徴しているのかもしれない。

「大きいことは
いいことだ型経営」の限界

 わが国の企業経営者の間では、伝統的に企業規模の拡大を追い求めることが、最も重要な命題の1つと認識されてきた。そのため、できるだけプロダクト(提供する製品やサービス)・ポートフォリオを膨らませて、売上高や経常利益の絶対額や、従業員数を大きくすることを目指す企業経営者が多かった。その結果、様々なプロダクトを総花的に扱う経営、いってみれば、“大きいことはいいことだ型経営”が、わが国企業のなかで経営の主流を占める手法の時期があった。

 確かに、企業規模が拡大すると、それだけ体力は強化される可能性が高く、大きい分だけ企業の安定性を増すことができるだろう。扱うプロダクトが多くなることで、企業の収益チャンスを増加させることもできる。また、企業で働く従業員の企業に対する帰属意識が高いわが国では、従業員の数が増えることによって、社会の中での存在感をより大きく示すことができる。企業にとって大きな強みであることは間違いない。

 それは、第2次世界大戦当時、わが国の海軍が持っていた“大艦巨砲主義”に似ている。当時の海軍の幹部は、大きな大砲を積んだ大型の戦艦同士が、広い海原で会戦を繰り広げる構図を念頭においていた。しかし、実際には、既に有効な戦略は大きく変化していた。それまでの大型戦艦同士の会戦は殆ど姿を消し、空母を中心とする機動部隊が、相手の戦力に致命的な打撃を与えるスタイルに変わっていたのである。そのほうが、より有効な戦略だったからだ。

 それと同様、“大きいことはいいことだ型経営”には大きな短所がある。それは企業規模を追求する余り、経営の効率に目が行かなくなることだ。企業を大きくすることに注意を取られて、儲けの薄い=経営効率の低い分野がそのままになってしまうケースが多いのだ。それでは、企業経営者は、株主から預かった経営資源を有効に活用していることにはならない。

企業は何を目指すべきか?

 古来、“企業は何を目指して運営されるべきか”という点については、様々な見解がある。「長期的な収益の極大化を目指すべきだ」、あるいは、「長期的な社会的貢献を目指すべき」などの議論もある。ただ、最近の議論の行方を見ていると、「企業とは、企業価値の極大化を図るべきだ」とのロジックが有力になっているようだ。企業価値とは、将来、当該企業が生み出すキャッシュフローの現在価値ということができる。この考え方に基づくと、優秀な経営とは、企業が効率よく収益を上げることができる仕組み=ビジネスモデルを作ることに帰着することになる。

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真壁昭夫 [信州大学教授]

1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員などを経て現職に。著書は「下流にならない生き方」「行動ファイナンスの実践」「はじめての金融工学」など多数。


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