日本全国には、子育てや介護などさまざまな事情で職場を離れざるをえなかった「元」女性エンジニアが数多く、その能力を社会のために発揮することのないまま眠らせてしまっている。これほどもったいないことがあるだろうか。技術的にも、経済的にも、文化的にも、このままでは21世紀の日本にとってじつに大きな損失である。しかし最近、そこに明るい兆しが見えてきたように思う。生活様式や意識の変化と、デジタル技術やネットワークの進化がその背景にある。(文/CHORDxxCODE 中島佐和子)

急がれるバリアフリー化技術の開発

 1970年代、70歳の女性が識字学級に通って初めて字を覚えた。それがうれしくて彼女は手紙の中で、『字を覚えたら、夕焼けが美しかった』と書いた。想像してみてほしい。言葉の持つ力を発見して、それをもって相手に気持ちが伝わった時の感動を。

 2014年。私たちのまわりにはまだまだ大勢のひとが、彼女と同じようにさまざまな障害と社会的な障壁によって、本来感じてしかるべき深い感動から遠ざけられている。このようなバリアをなくそうという動きが、日本でもようやく活発になってきた。

 最近テレビで、外国語放送ではないのに字幕が入る映像を目にする機会があるのではないだろうか。「しかし、どの番組にもというわけでもないな……」と思われたかもしれない。この「字幕放送」は、主に聴覚に障害のある方や音声が聞こえにくくなった方のための放送で、テレビ欄では字幕放送を示すマークが付される。会話部分はもちろん、効果音など他の音も字幕化し、生放送でもかなり対応できるようになってきた。

 NPO法人メディア・アクセス・サポートセンター(東京都中野区)は、視覚や聴覚に障害を有する人たちが映画や映像を楽しむための音声ガイドや字幕の普及活動を行っている。障害をもつ当事者からの強い要望を受けて、「映像のバリアフリー化」を進めている。

女性エンジニアが求める新しい「職住スタイル」図1 映像のバリアフリー化プロジェクト(平成22年度障害者総合福祉推進事業「バリアフリーによる映画鑑賞の技術開発および普及事業」報告書(※1)より一部抜粋)

 テレビ放送の分野では2017年までに字幕付与を100%に、音声ガイド付与を10%にすることが国の努力目標として定められ、また最近ではCMの字幕化に関する検討会が始まるなど、オリンピックを視野に国レベルでの施策が急ピッチで進んでいる。映画のバリアフリーを進めるプロジェクト(図1)や、民間での字幕や音声ガイド制作者の育成事業も始まり「映像のバリアフリー化」が急がれている。

 同NPOは、こうした動きがもたらす新しい労働市場についても言及している。

「バリアフリーに関わる社会的なニーズを掘り起こし、実現するバリアフリーの品質を保証しつつ、いっぽうで、(この分野に関する技術や経験を有しながら)仕事を諦めて在宅になっている人たちの再就職を促進していきたい。社会的にもちょうどいい経験を積んで、それぞれの役割を担ってきた中堅の優れた人たちが、子育てや介護で働けない状況は、社会にとっても大きな損失である」