メインシナリオは「追加緩和なし」
その3つの背景とは?

 筆者は日銀の金融政策について、「追加緩和なし」をメインシナリオと見ている。その背景として、①日銀が物価安定目標に対して強い確信を持っている、②潜在成長率の上昇がまだ視野に入らない中では、「CPI前年比2%」という物価目標に固執することに一定のリスクがある、③5月9日に日銀が発表した法定準備金積み増し方針のインプリケーション、などが挙げられる。

 ①は追加緩和の可能性ないし必要性を下げるという点から、「追加緩和なし」というシナリオにつながる。②と③は、金融政策の限界や追加緩和のコストという点から「追加緩和なし」というシナリオにつながる。

物価安定目標の実現に
対する日銀の強い確信

 結局のところ、金融政策の予測は日銀がCPIをどのように見通すかにかかっている。この点で、「2年でCPI前年比+2%」という物価安定目標に対して日銀が今なお強い確信を持っている点は、考慮されなくてはならない。

 むろん、現在の金融政策が経済主体の期待を変えることに重点を置いている以上、物価安定目標の実現に対する強い確信を示すこと自体が、そもそも「政策の一環」である点は忘れることはできない。その点を踏まえても、やはり日銀は非常に強い確信を持っているようだ。

確信の背景:
フィリップス曲線の上方シフト

 その背景として、フィリップス曲線が上方シフトした始めた可能性を指摘できよう。縦軸にコアCPIの前年比変化率、横軸に需給ギャップ(ただし2四半期先行)をとると、右上がりの関係が描ける。これがフィリップス曲線だ(図表1参照)。

筆者が「追加緩和なし」と見る3つの背景<br />~年内の焦点は「フォワードガイダンス」へのシフト<br />――森田京平・バークレイズ証券チーフエコノミスト注:1. 需給ギャップ(%)=(実績GDP-潜在GDP)/潜在GDP×100
  2.コアCPIは生鮮食費を除く総合CPI(消費税率引き上げの影響は除く)
出所:総務省『消費者物価指数』、内閣府資料よりバークレイズ証券作成