リスクよりも利益

 リスクよりも利益。負の連鎖から滴り落ちる甘い血をすするような仕組みを、アメリカウォール街が、いや人間の限りない欲がつくり出したといえる。
当時、ある米国投資銀行幹部は言った。

「CDSは画期的な仕組み債であり、金融市場の安定をもたらす商品である」
これに対し、伝説的な投資家であるウォーレン・バフェットは言っている。
「CDSは他人の資産に勝手に保険をかけたお遊びであり、デリバティブは金融版大量破壊兵器だ」
どちらが正しいかは、その後の衝撃的な現実が証明した。

 この当時、財務担当役員の前田嘉也と、会議の席で交わした会話を覚えている。
「サブプライムは、日本にどこまで影響をおよぼすと思う?」
私の質問に、前田は少し困った表情になった。
「うーん。相当の影響があることは間違いないでしょうけど。予測は難しいですね」

「ところがだ、ロイターのニュースによると、FRBのバーナンキ議長は、サブプライム問題は金融市場にそれほどの影響は与えないだろうと議会で発言したそうだ」
「本当にそうでなんでしょうか?」

 FRB(連邦準備制度理事会)とは、日本でいえば日銀のような存在だ。バーナンキ議長は、スタンフォード大学で教鞭を取った教授時代、90 年代に起きた日本のバブル崩壊を研究し、論文を発表した。日銀の緩慢な緩和策、つまり市場への通貨の供給量が足りず、失われた10年に繋がったと、日本のバブル崩壊以降のデフレ不況は「人災」だと断罪した。
 その高い見識が評価され、FRB議長に任命された人物である。そのバーナンキでさえも、この危機に対して正しい予測はできていなかったということだ。

 たしかに2007年の段階では、サブプライム危機の日本への影響はまだ限定的だった。
 国際金融市場混乱の余波を受けて、7月に1万8000円前後から一度急落した日経平均株価も、しばらくは1万6000円以上の水準を維持していた。

 エスグラント自体、2007年の6月決算で売上高(377億円)、経常利益(23億8000万円)とともに過去最高記録を達成し、翳りの予兆など微塵もなかった。(つづく)


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第2章 暗雲-- 「傲り」を象徴する出来事が<br />僕を蝕み始めていた【その2】<br />「サブプライム危機を予測できなかったのか」

早すぎた栄光、成功の罠、挫折、どん底、希望……
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起業した会社を上場させ、倒産して地獄を味わい、そこから復活するまでに経験した出来事から、私はたくさんのことを教えられた。 なぜ私は地獄を味わうことになったのか。 なぜ私は復活できたのか。 この5年間の出来事と、私自身が考えてきたことを、正直に書き留めておこうと思う。

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目次
○プロローグ  ベンチャー経営者であることを
○第1章 絶頂──ワンルーム販売から、総合不動産業。そして都市開発へ
○第2章 暗雲──「傲り」を象徴する出来事が僕を蝕み始めていた
○第3章 地獄──暗闇の断崖を転げ落ちながら必死でもがき続けた
○第4章 奈落──民事再生、自己破産、絶望しそうな淵の底で
○第5章 希望──2年間は修行と決めて真にやりたい事業を見つけ出す
○第6章 感謝──どん底で知った感謝とともに新しい道を歩いていく