緊急・確実な伝達に欠かせない
電話コミュニケーション

 中小企業にとって「IT活用の要諦は既存の資産を有効活用することです」と伊嶋氏は強調する。新たな取り組みを始める際に、コストがかさむとなると経営者は躊躇する。新規投資をすることなく、既にあるツールを使いこなす。その一つがスマホである。

 ビジネス現場でスマホの利用が急速に広がる現在、営業・販売支援など顧客管理に適した各種アプリなどもクラウドサービスとして提供されている。アプリを全社で導入する前に試しに営業部門の一部で使ってみるなど、必要な機能をサービスとして利用できるクラウドとスマホを組み合わせることにより、中小企業にとって有効なツールとなる。

 ただし、従業員が所有するスマホを業務でも利用するとなると一定のルールが必要になる。例えば、スマホのビジネス利用に必要なセキュリティの確保や通信料金の公私分計の仕組みなどは、外部のサービスを利用する手もある。「セキュリティを担保した上で、スマホの利用で仕事がはかどり、コミュニケーションがうまくできるのであれば経営者は大歓迎でしょう」と伊嶋氏は見ている。

 スマホの利用により、外出先からメールやスケジュールを確認するなど移動中のすき間時間を有効に利用できる。持ち運びが大変で、起動に時間がかかるといったノートPCの課題をスマホが解決するのは、多くの人が経験済みだろう。

 そして、見落としがちなスマホの基本的なメリットは、メールやネット検索などのデータ通信だけでなく、実は当たり前だが、通話ができることだ。社内外の連絡手段としてメールの利用が増えているが、伊嶋氏は「電話は緊急を要する連絡や、確実なコミュニケーションに欠かせません」と強調する。緊急でない連絡はメール、決断を下すような重要な要件は電話とコミュニケーション手段を使い分けている人も多いだろう。

 スマホの電話機能という側面から見ると、中小企業にとって導入しやすいサービスに、「スマホの内線化」がある。社内に設置しているPBX(電話交換機)の機能をクラウドサービスで利用する「PBXのクラウド化」を活用すれば、従業員の働き方などの改革も可能だ。

 例えば、スマホの内線化によって電話取次に関わる仕事の「無駄」がなくなる。電話取次で作業が中断される、不在者への伝言メモを残すといった手間がなくなること加え、電話取次に時間を割かれることもなくなる。また、ロケーションフリーで内線電話を使えるようになり、外出先でも顧客や社内からの連絡などを受けられて、場所にとらわれず業務を行うことができる。その結果、中小企業にとって限られた人材の生産性を上げることができるのだ。

 個人所有のスマホの業務利用など、現場からの発案を重要視し、ITを経営革新に生かすための仕組みを経営者は検討する必要がある。そのためには、「何でも相談でき、頼りになる外部パートナーを見つけることです」と伊嶋氏は助言する。中小企業の多くは専任の情報システム部門を持たず、経営者や現場がIT活用の方向性を決断する場面もこれまで以上に増えてくる。「現場が簡単に利用できるクラウドサービスの需要はますます高くなってきます。そして、企業に最適な通信環境や充実したサポートについて、ベンダーなどが提供するサービスをうまく選択することが重要な要素になります」と伊嶋氏は述べる。

「PBXのクラウド化」をどのように進めれば、経営革新に導けるのか。その具体策を第2部で解説する。

[制作/ダイヤモンド社企画制作チーム]