「死んだ」と思われていた放送法の改正論議が突然、息を吹き返した。大手新聞各紙は「対岸の火事」と言わんばかりに関心を示そうとしないが、同法の改正案には、政府から独立した存在であるべき公共放送・NHKを補助金漬けにして、より洗練された形でNHKの海外向け放送を支配しようとする政府のメディア支配の野望が秘められている。このまま暴挙を黙認してよいのだろうか。

 「特に重要な法案だと考えているので、できるだけ早く審議に入ってほしい」――。

 最近になって、国会では、新テロ対策特別措置法を廃案としないために再度の会期延長論まで出ているが、実は、すでに実現した12月15日までの35日間の会期延長によって、潤沢な審議時間が確保され、一時はお蔵入りが確実とみられていた、ある別の法案がすっかり息を吹き返していた。

 その法案こそ、当初は「50年ぶりの大改正」と言われながら、大手新聞各紙がなかなか真摯に報じようとして来なかった放送法の改正である。

改正案を通すために
政府が民主党に与えた“飴”

 放送法の改正を審議する機運を決定的なものにしようと、増田寛也総務大臣が冒頭の言葉を強調したのは、13日の閣議後の記者会見での出来事だった。

 ちなみに、審議への協力を前提にして、政府・総務省は、民主党にお手柄として与える“飴”の中身も決めている。政府・総務省は、関西テレビの情報番組「発掘!あるある大辞典Ⅱ」の捏造をきっかけに、今回の放送法改正で、放送局に対する新たな処分規定を設けて規制を強化する方針を打ち出していたが、この観点からの改正をそっくり削除するというのだ。

 この規定には、日本民間放送連盟が強く反対していた背景がある。民主党や共産党がこの規定に反対してきた経緯もある。そこで、「民主党に、同規定を削除する修正案を提出させて、政府がこれを受け入れることによって、民主党に花を持たせよう」(政府首脳)というのが、その“飴”なのだ。

 当初、今回の放送法改正には、3年前のNHKの信じられないほどの不祥事の続出によって急増した受信料の不払い問題の対策として、テレビ受像機の保有者に受信料支払いを義務付ける案が含まれていた(現行法は、支払いでなく、受信契約を義務付けている。このため、学者の中には、番組内容などへの抗議に伴う不払いは許容されるとの学説が存在する)。