『黄金のメロディ マッスル・ショールズ』という映画が上映中だ。タイトルからおわかりのとおり音楽がテーマの映画で、先週の金曜日、僕も観てきた。それは単に、僕が音楽が好きということだけでなく、何か「これは観なければならない」という、ほとんど強迫観念にも近いインスピレーションを受けたからだ。経験的に、このようなインスピレーションには従ったほうがいい。

 結果は、大正解。これは観たからこそ言えるのだが、これは単なる音楽映画ではない。新しい価値を生み出す大きなムーブメントで社会を変えるとはどういうことか、どうすればそれが可能になるのか――を教えてくれる映画である。その意味では、音楽ファンだけでなく、世の中を変えたいと志す全てのソーシャルファイターも必見の映画なのである。いや、むしろ、単なる音楽ファンよりも、ソーシャルファイターにこそ観てほしい映画だと言える。

アラバマ州の小さなスタジオで生まれた
アメリカを代表する数々の名曲

 この映画は、アラバマ州のマッスル・ショールズという人口8000人くらいの小さな町にある、レコーディングスタジオの歴史を紹介するドキュメンタリーだ。最初にフェイムスタジオというスタジオが設立され、そこから名曲・名盤が次々と生み出されていく。その後、フェイムスタジオのスタジオミュージシャンたちが独立し、マッスル・ショールズスタジオを設立する。この映画は、この2つのスタジオの歴史を、ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ボノなどのトップアーティストのインタビュー映像と、過去の記録映像を織り交ぜながら辿っていく。そんな内容である。

 なにしろ、この2つのスタジオから生み出された名曲、ヒット曲は、パーシー・スレッジの名曲「男が女を愛する時」、ウィルソン・ピケット「ダンス天国」「ムスタング・サリー」、アレサ・フランクリン「貴方だけを愛して」ザ・ローリング・ストーンズの「ユー・ガッタ・ムーヴ」「ワイルド・ホース」「ブラウン・シュガー」など。他にもジミー・クリフ、スティーヴ・ウィンウッド、ボブ・ディラン、ポール・サイモン、サイモン&ガーファンクルなどなどそうそうたるアーティストが、このマッスル・ショールズを訪れ、レコーディングを行ない、85枚以上のゴールドディスクが生み出されている。

 24歳で夭逝した名ギタリストのデュアン・オールマンも一時、フェイムスタジオでスタジオミュージシャンとしてギターを弾いていた。ちなみに、デュアン・オールマンの名前を知らない人でも、エリック・クラプトン率いるデレク・ザ・ドミノスの名曲「愛しのレイラ」はご存じだろう。あの曲で、印象的なギターソロを弾いていたのがデュアン・オールマンである。