メンズスーツの購買層はどう変化するか

「そしてビジネスマン2、3年生になり、スーツも何着か買って着慣れてくると、自分をもっと良く見せたいと思います。そして、この頃は多くの男性は女性の視線を気にします」

「嫁さん探しだな」

「その通りです。よって、この頃から一部の層は、ポールスミス、ヨージヤマモトなどのデザイナーズブランドに移行し、スーツファッションを意識する層が増え始めます」

「確かにそうだ」

 田村もメンズの客層をイメージし、頭に描いているようだった。

「彼女を見つけ、めでたく結婚しても、しばらくはその傾向が続きます」

「最近の若者は、車への興味も減っているから、可処分所得も増えているのだろうな?」

「そうかもしれません。ところが、子どもができるとそのライフスタイルは一変します。奥さんの意識は子どもに向きますし、子どもにお金がかかり、お父さんはそれまでのように自由にお金が使えなくなります。ここで再び郊外型のスーツ専門店、ショッピングセンターなどに入っている安くスーツを買える店に戻ってくるわけです」

「なるほどなあ」田村はあご鬚をさわりながら言った。

「その先は、その方のキャリア次第で分化していきます。一般的に、スーツは着れば着るほど、その良し悪しがわかってくるようになります。会社で偉くなって行く方は、自分自身が次の職位への昇格候補となった、いわゆる勝負の時期や、そして昇格した後にビジネスステイタスの象徴としてのスーツを志向する場合があり、高級なブランドや店に変える方もいます。また、独立し、成功したりして収入面で余裕ができ、色気づいて、以前よく言われた、いわゆる『チョイ悪親父』としてアルマーニなどのデザイナーズ・ファッションブランドに進む方もいます」

「確かにな…」田村は話を聞きながら笑った。

「また新興のIT企業のように、制服的な位置づけのスーツを着ない会社も増えていますから、全体としてスーツの市場は小さくなってきてはいると思います。そして、ビジネスマンの給料が上がらない、出世もままならない、という時期も長く続いていますので、お金をかけてまでビジネスステイタスをアピールしたいとは思わない客層もかなり増えています」

「うむ」と田村は大きくうなずいた。