フィリピン在住17年。元・フィリピン退職庁(PRA)ジャパンデスクで、現在は「退職者の ためのなんでも相談所」を運営する志賀さんのフィリピンレポート。口に合わなくても「まずい」とは言わない半面、決して口にしない子どもたち。フィリピンの「YES」に込められる意味は7つあるという。その意味とは?

 昨夜、夕食のおかずに出たスープの具の魚がぼそぼそであまりにマズいので、二度と買わないようヤヤ(乳母)に申し付けた。一緒に食事をしていたジェーン(私の仕事の相棒)とキム(ジェーンの夫の連れ子)にも同意を求めたが、はっきりした返事がない。

 それでもしつこく、「なぜこんなにマズいのか。マグロにしてはおかしい」などと同じ話をぐだぐだと続けた。するとジェーンが、堪忍袋の尾が切れたように、「食事中に食べ物への小言はやめろ。それは神への冒涜だ」と言うのである。

 「食べられるだけでありがたいと思え。出された食事は黙って食べ、もしもどうしてもいやなら手をつけないで、”マズい”などとけっして口に出してはいけない。とくに子どもの前では禁句だ」と叱りつけられた。

 それで私も抗議した。

 「フィリピン人同士ならそれはそれはいいだろう。しかし、外国人に接するときはちょっとしたことから誤解が生じて、摩擦の原因になる。口ではおいしいと言いながら、本当はマズいから手をつけないというのは、外国人にとって嘘つきと映るのだ」と。

「おいしい」と言いつつ手をつけない子どもたち

 この日、たまたまKIAN(ジェーンの息子)と双子(ジェーンの弟の子ども)を人気レストランの「サイカ」に食事に連れて行った。

KIANの大好きな「サイカ」では、かたい焼きそばとエビフライ定食が定番だ【撮影/志賀和民】

 双子のアレアとアレクサは9歳になるが、いつもビーフ鉄板焼き定食では物足りないだろうと、気を利かせて、和風ハンバーグ定食を注文してやった。アスパラ・ベーコン巻もついて、フィリピンでも定評のある料理だ。しかし双子は、ハンバーグに乗っていた半熟の目玉焼きをフォークで突っついて、ちょっと味見をしただけでけっして手をつけなかった。

 「おいしくないのか」と何度聞いても、「おいしい」と答えるばかりで、KIANのかた焼きそばのつゆをご飯につけて食べたりしている。いつものうれしそうな顔もまったくないし、ヤヤもノーコメントで、私としては手の打ちようがない。

いつものビーフ鉄板焼きではなく、和風ハンバーグ定食を注文され、料理にまったく手をつけずブスッとしながら食事をする双子【撮影/志賀和民】

 夕飯の時のジェーンの言葉で、双子の態度が理解できた。口では「おいしい」と言いながらも、本心はまったく逆で、マズくて手が出なかったのである。他人がいくらおいしいと言っても、本人がマズいと感じて手をつけないのだから、どうしようもない。ホットドックと目玉焼きを常食とし、チキンのからあげが最高のご馳走と思っているのだから、日本食レストランでご馳走して喜ばせようと思った私がバカだったのだ。


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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