研修を終えた者だけが本採用される

 前原社長と入れ替わりに、仕立てのいいスーツを着た丸刈りの男が登壇した。年の頃は40代後半。短い首、はげ上がった額、眉間の縦じわ。その風貌からヒカリは思わずタコ坊主を連想した。

「タイガーコンサルティングの海野勝です」

 その男は、新入社員の顔をゆっくりと時間をかけて見渡した。

(タイガーコンサルティングって何なの?)

 ヒカリはいぶかしく思った。

「君たちの中には、なぜタイガーコンサルティングの私がここにいるのか、と首をかしげた人もいるかも知れない。私は、タイガーの社長であり、同時にニューコンの社外取締役にもなっている」

 そう言って、海野は胸を張った。

「最初に言っておきたい。いまの君たちの実力では、まともなコンサルはできない。つまり金を稼げないということだ。そんな素人をクライアントに行かせるわけにはいかない。よって、半年間の研修プログラムを完全に履修した者だけがニューコンのコンサルタントとして本採用される」

 ここまで話すと、海野はコップの水を一口飲んだ。

「その研修内容について説明する。5年前までは、フロリダのキーウェストにある研修センターで半年間のプログラムを受けてもらっていた。だが膨大な研修費を抑えるために、各国のメンバーファームが独自の方法で研修プログラムを作成することになった。日本支社としては、現場での実務経験を積極的に取り入れようと考えたのだが、素人を派遣して高い報酬を請求すれば、ニューコンの名声を傷つけてしまう。というわけで、君たちには、ニューコン日本支社が提携するコンサルティング会社で半年間のOJTをしてもらうことになった。ちなみに、わがタイガーも、この研修制度が始まって以来、新入社員を受け入れている。で、今年は…」

 と言って、海野は書類に目を近づけた。

「菅平…」

 その瞬間、ヒカリはめまいを覚え倒れそうになった。そのあとのことは覚えていない。

 入社式が終わると、同期の仲間が駆け寄ってきた。

「タイガーで研修するんだ。先輩から聞いたんだけど、あそこは『虎の穴』って呼ばれているんだって。知ってる?」

 仲間たちは、なぜかうれしそうだった。