デジタルカメラ、複写機に続く事業が育たない。長年指摘されながらも、乗り越えられずにいた課題である。研究開発の現場から生まれたプロフェッショナル向け「BtoP」の新規事業は、果たして花開くか。(「週刊ダイヤモンド」編集部 大矢博之)

 6月13日、東京・大田区のキヤノン本社。御手洗冨士夫会長兼社長ら役員が、とある一室に吸い込まれていった。幹部がひそかに集まった理由はただ一つ。まだほとんど世に出ていないキヤノンの研究成果を、自らの目で確かめるためである。

 静かな熱気に包まれた部屋に並べられたのは、極小の部品や大型機器など約20の品々。展示品には「オンリーワン」「ナンバーワン」などの説明書きが誇らしげに付けられていた。成果を一覧した御手洗会長は「技術のレベルが一段と高くなった」と満足げな笑みを浮かべ、会場を後にしたという。

 この日、開催されたのは、研究成果の粋を集めた年に1度の成果報告会である。昨年は全ての研究が一通り発表されたが、今年は世界でもキヤノンしか手掛けていないものか、世界トップ級のものしか展示が許されない“よりすぐり”の形式を取った。参加者は役員と関連会社のトップだけ。もちろん撮影は厳禁の、極秘の報告会である。

夢の研究に選ばれたレーザーと超音波で
血管を3次元表示

 参加者によると、厳選された研究成果の中でも、ひときわ注目を集めたのは、血管の状態を3次元で表示することができる“オンリーワン”の医療機器だった。

 光超音波トモグラフィー(PAT)と呼ばれるこの機器は、まるでレントゲンで撮影したかのごとく、手などの血管網を3次元で撮影できるのだという。人体は傷つけず、造影剤も不要だ。