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岸博幸のクリエイティブ国富論

本当に強欲なウォール街が悪いのか?
金融危機を巡る3つの通説を疑え

岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]
【第15回】 2008年11月14日
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 欧米各国の政府の協調的な政策行動の成果で、金融危機は最悪の時期を脱し、市場も落ち着きを取り戻しつつあるように見えます(実体経済はこれから更に悪くなるでしょうが)。そこで、良い機会ですので、今回の金融危機を巡って流布している“通説もどき”が正しいのかを考えてみたいと思います。

 金融危機を巡る報道やワイドショー系の評論家のコメントで一番目立ったのは、「ウォールストリートの証券会社の強欲さが今回の危機を招いた」、「資本主義の名の下に金融機関を自由にさせ過ぎたことが金融危機を招いたのであり、政府の規制や介入を強化すべき」、「米国経済は金融危機の影響でもうボロボロ」といった類いのものでした。本当にそうでしょうか。

 まず第一の主張について考えてみましょう。本当にウォールストリートの証券会社が悪いのでしょうか。以前にも書いたように、今回の金融危機の本質的な原因は米国経済のマクロ・インバランスです。米国の過剰な国内需要が膨大な経常収支赤字を生み、それをファイナンスする必要があった(=他国の投資機会よりも収益率の良い金融商品を米国が提供する必要があった)からこそ、ウォールストリートで様々な証券化商品が生み出されたのです。

 ついでに言えば、日本を含む他の国も、対米黒字に依存して景気拡大を謳歌し、内需振興などを通じてマクロ・インバランスを是正しようとはしませんでした。そう考えると、確かにウォールストリートの強欲さには問題があるにしても、彼らばかりを悪者にするのはいかがなものでしょうか。

資本主義が本当に
悪かったのか?

 第二の主張も、冷静に考えるとすごくおかしな論調です。本当に資本主義が悪かったのでしょうか。自由放任とは正反対に、米国政府が市場に過度に介入したことが、過剰な国内需要、ひいては金融危機を作り出したとも言えるのではないでしょうか。

 米国の1990年代後半以降の景気拡大は、今となって考えれば、連邦住宅局(FHA)、連邦住宅抵当公社(ファニーメイ)、連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)といった機関による住宅売買優遇策が作り出した金融/不動産バブルによって支えられてきました。住宅ローンの支払い利子の所得控除や住宅売却益の非課税扱いなどの政策が、過度の不動産投資を煽ったと言われています。

 また、ファニーメイやフレディマックは“政府援助法人”(日本的に言えば政府系金融機関)であり、その融資や債券には暗黙の政府保証が付いていたことが、金融機関の不動産向け融資を煽ったと言われています。加えて言えば、2001年の9.11テロ以降、FRBが意図的に低金利を維持したことも、住宅バブルを煽りました。

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岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]

1986年通商産業省(現経済産業省)入省。1992年コロンビア大学ビジネススクールでMBAを取得後、通産省に復職。内閣官房IT担当室などを経て竹中平蔵大臣の秘書官に就任。不良債権処理、郵政民営化、通信・放送改革など構造改革の立案・実行に関わる。2004年から慶応大学助教授を兼任。2006年、経産省退職。2007年から現職。現在はエイベックス・マーケティング株式会社取締役、エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社顧問も務める。

 


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