目を伏せた田島に代わり、
「部下のせいにするのは旧Tの得意技か」
 半沢は嫌味で返した。「君は実務の責任者だろう。だったら、全て自分の責任です、ぐらいのことはいったらどうだ」
「なにっ」
 いまにもツッパリでも繰り出しそうな目で曾根崎が睨んだが、半沢は知らん顔で、本題に入っていく。
「さっき部長から簡単な経緯については聞いた。同社が作成する新たな再建計画をフォローしろとのことだが──」
「まず、同社が履行不可能に陥っている現在の再建案について説明させてください」
 田島がいい、抱えてきた資料からファイルに挟まった分厚い冊子を出した。
 表紙のタイトルは、「帝国航空グループ再生中期プラン」。要約には、今年度からの三年間で千二百億円の黒字に転換するというまさに壮大な再生シナリオが記されている。これこそ、いまや銀行も政府も、まったく信用に値しないとダメ出しした計画書であった。その概要を、田島は要領よく詳説していく。
「従業員の削減も計画通りには進んでいないし、さらに予想された収益も未達のまま低迷しています」
「そもそも計画自体にも問題はあったんだろうが、なんでこうなる?」
 計画と現実とのあまりの乖離ぶりに、半沢は改めて問うた。「ウチだってその後の進捗は見守っていたわけだろう?」
「もちろんです。定期的にモニタリングして、改善を申し入れてきたんですが」
「帝国航空のメーンバンクは、たしか開投銀だったよな」
 資料のページをめくりながら、半沢はきいた。開投銀――開発投資銀行は、この数年で帝国航空に対して層倍の支援を行い、いまや東京中央銀行の支援残高を抜いて押しも押されもしないメーンバンクになった政府系銀行だ。開投銀の帝国航空に対する融資は二千五百億円。政府系とはいえその額はダントツで、開投銀と東京中央銀行の融資残高を合計すると帝国航空がもつ有利子負債の七割以上のシェアになる。
「開投銀からも、同様の申し入れはしていたはずです」と田島。
「それでも動かなかったと?」
 田島は苦悩の表情を浮かべた。