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8月11日 18時0分
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地政学リスクで急落した日本株式市場 背景と今後の見通し - 広木隆「ストラテジーレポート」

急落の背景:地政学リスクとリスク回避の流れ

先週金曜日、日経平均は454円安と急落した。地政学リスクが一気に噴出した格好である。経済制裁を巡る西側諸国とロシアの関係悪化、ウクライナ情勢の緊迫化、イスラエルのガザ侵攻など中東問題、エボラ出血熱も深刻な拡大をみせるなど、地政学リスクは徐々に高まっていたが、オバマ大統領がイラク空爆承認というニュースがとどめとなった。 

マーケットの世界では「不確かなこと」を「リスク」という。リスクには2種類のリスクがあって、ひとつは不確かながらも確率計算である程度は起こり得る範囲が把握できるもの。株価の変動率などはこのリスクである。

もうひとつは、まったく予見不可能なもの。そういうリスクを「真の不確実性」という。地政学リスクはこちらのリスクである。ひとは不確実性のリスクをより嫌う傾向がある(その証明のひとつ、「エルスバーグの実験」については本日の『新潮流』第60回「地政学リスクと不確実性」ご参照)。だから、これだけ地政学リスクが重なると、不確実性が高まり過ぎて許容できるリスクの量を超えてしまった。それが金曜日の暴落である。

但し、市場の根底には、もともとリスク回避の潮流がここのところあって、それが地政学リスクと共振、共鳴しながら大きな動きにつながったというのが妥当な見方であろう。

「リスク回避の流れ」のなかでいちばん中心的なものは、米国株相場の調整である。QE(量的緩和)が秋に終わり、来年のどこかでは利上げが確実視される。米国の金融政策の大転換が間近に迫っているなかで、最高値圏にある株式市場が動揺するのはむしろ正常ともいえる。

ふたつめは、行き過ぎたイールド・ハンティングの反動が起き始めているという点。リスクに対してあまりに鈍感になっていたから、そろそろ揺り戻しが来て、これも当然。ハイイールド債のスプレッドが拡大する一方、ドイツの2年国債利回りが一時マイナスになるなど今度は極端なリスク回避、質への逃避が起きている。(グラフ1)



リスクに対して鈍感ということでは、歴史的低水準に下がったボラティリティへの警戒もあった。これ以上は下がりようのないところまでいってしまったから、みんな、いつかどこかでボラが上がる、すなわち波乱が起きるはず、と戦々恐々となっていた。そうしたところに地政学リスクがこれだけ重なれば相場が崩れるのも無理ないところであろう。(グラフ2)



日本の特殊事情

世界の株式市場のなかで日本株の下げが突出して大きいが、それは日本株独自の事情による。まずオバマ大統領の空爆承認が報道されたタイミングがアジア時間だったこと。第一報に接してパニック売りが出てショック安となった面がある。冷静に分析できる時間がなかったのだ。繰り返すが、地政学リスクというのは予見不可能、これ以上わからないものはないわけで、「分からないなら、とりあえず売っておこう」となったのだ。

日本株は好決算などを手掛かりに、米国市場とでカップリングするなどこれまで比較的値もちが良かったこともあって大きな下げとなった。でも、それを言うなら3年ぶりの高値に上昇している香港が小幅高だったのはどうしてか?香港・上海市場の堅調さは意外というほかはないが、さらに日本固有の事情を挙げるなら、
① リスク回避の円高に受ける影響度が一番大きいこと
② アジアのなかで時価総額・流動性の面で市場の規模が大きく、このタイミングでとれるヘッジ売りを一手に引き受ける結果となったこと
③ SQ通過後で短期筋の機動性が増していたこと
などが指摘できるだろう。
今後の展開

週明けは反発して始まる公算が高い。地政学リスクがやや緩和して米株が反発したこと、特にNYダウが重要なテクニカル上のポイントで切り返したことが安心感につながるだろう。NYダウは過去200日移動平均が下値サポートとして機能してきただけに、ここを下に突き抜けていたら相当投げ売りがかさんでいたことだったろう。それを回避できたのは相場にとって大きな意味がある。(グラフ3)



前述の通り、金曜日の日本株はいろいろな要因が重なって大幅安となったが、売られ過ぎというのは衆目の一致するところだろう。出そろった第一四半期の決算はまずまずだったから、業績面から見ればこの水準は割安である。特に、アナリスト予想の平均であるクィックコンセンサスをもとに算出した日経平均の1株当たり利益は、1100円近くまで上方修正されてきている。これをもとにしたPERは13.5倍。グラフからもわかる通り、13.5倍というのは今の予想利益対比の水準感で言えば1万4000円まで売られた感覚。1万4000円というのは今年前半に何度も試した岩盤だった水準であり、この観点から見て、もう底値にはじゅうぶん届いていると考えられる。(グラフ4)



但し、地政学リスクというのは予見不能であるから、いつまた緊張が高まるかわからないという点では不安材料が残り続ける。そして、マーケットは一度、動揺すると、しばらく余波が残るものである。その理由として、価格の調整はつくが、玉の調整がつかないからだと言われる。

上げ100日、下げ3日という格言は、上昇相場はじりじりゆっくりと上がるが、下げはスコーンと下がることの喩えだが、大きく下げた後の戻りが特にそうである。一度相場が大きく壊れてしまうと大抵、戻りに時間がかかる。

株価が動くのは速いから、すぐに割安圏まで下がる。しかし株価の動きが速いがゆえに需給の調整が追い付かない。急落で売りそびれた投資家が戻り局面でやれやれの売りを出す。信用取引の追証に絡む換金売りなども戻りのスピードを抑える。そうしたことから急落の後はなかなか相場が安定しないものである。

但し、今回は信用の買い残が膨らんでいなくて低水準のままであることに注目したい。グラフ5は個人投資家に人気の東証マザーズ指数と信用買い残の推移である。(グラフ5) 今回の上昇局面は循環物色で回転が効いていたので、建玉の決済も次々と進み、残が積み上がっていないのだろう。だから今回は過去のパターンと違って玉の調整が長引かないかもしれない。案外、早く戻す可能性があるということだ。



もう少し中期的なポイントはなにか?なんと言っても米国市場が安定することである。もとをただせば、金融政策の大転換を控えた米国市場の動揺がすべての根源。金融相場から業績相場へのバトンタッチがスムーズにいくかどうかの懸念が相場を揺り動かしている。最後はファンダメンタルズ、企業業績がどうなるかに尽きる。

これもレポートでずっと指摘していることだが米企業がこれまでの低成長のなかで利益を出してくることができたのはコストカットによるものだった。これから売上高の伸びを伴う増収増益型の利益成長に移行できるかが焦点だが、その兆しが今回の決算で見え始めたのは明るい材料である。

調査会社トムソン・ロイターによると、米企業の4〜6月期決算はS&P500種株価指数の採用銘柄のうち450社が発表を終え、採用銘柄の純利益は前年同期比8.2%増になる見込み。1〜3月期の5.6%増から増益ペースが拡大するし、さらに前週時点の7.8%増益から上方修正されている。加えて、売上高の伸びは同4.4%増になる。12年1〜3月期以来9四半期ぶりの高い増収率だ。(表) 



地政学リスクが落ち着き、市場の視線が再びファンダメンタルズに向けられるようになれば、米国経済のマクロ、そしてミクロはともに好調な足取りを辿っていることが確認されるだろう。よって、米国株式相場は早晩、安定的な上昇基調に回帰するものと思われる。


(チーフ・ストラテジスト 広木 隆)

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