俺にとってサヴァリースは興味深い相手だった。かませ犬なんかじゃない。1997年にはジョージ・フォアマンと最終ラウンドまで戦い、敗れはしたものの1対2のスプリット・デシジョンに持ち込んでいた。98年にはバスター・ダグラスを1ラウンドでKOしている。42戦で32のKO勝ち。それでも問題ないと思っていた。

 ゴングが鳴り、最初に繰り出したパンチでダウンを奪った。左ロングフックが、テンプルをとらえていた。起き上がったところを容赦なく攻撃。もう一度ダウンしかけたところで、レフェリーが割って入った。試合を止めているのかどうかわからず、そのままラッシュ、ラッシュ。たまたま左フックが当たってレフェリーを倒しちまった。もちろん、殴ろうとして殴ったわけじゃない。サヴァリースを痛めつけるまで容赦なく攻め続けただけだ。

麻薬による高揚

 試合後に〈ショウタイム〉のジム・グレイからインタビューを受けたとき、俺は興奮していた。

「マイク、これまでで最短の試合じゃなかったですか?」

「神は1人だけである証明だ。預言者ムハンマドの祝福だ。この試合を亡くなった俺のブラザー、ダリル・ボームに捧げる。そっちに行ったら会おうぜ、心から愛している。すべての称賛は、俺の子たちに。愛してるぜ。どうだ、ちきしょう。うん? なんだった!?」

「これは今までで最短の試合ですか? アマチュア時代、プロになってからを通じて?」

「あなたに神の平安を(アッサラーム・アライクム)[イスラム教徒が使うアラビア語の挨拶]。わからない。そうだ、レノックス・ルイス(当時の世界ヘビー級チャンピオン)、レノックス、行くからな、待ってろよ」

「たくさん練習してきて、7、8秒で試合が終わってしまうと物足りなくないですか?」

「この試合のためには2週間ほどしか練習しなかった。親友を埋葬しなくちゃならなかったからな。その友人にこの試合を捧げた。あいつの心臓をぶち破るつもりで戦った。俺は史上最高、ボクシング史上もっとも残虐で、獰猛で、情け容赦ないチャンピオンだ。俺を止められる者はどこにもいない。レノックスは征服者か? 違う! 俺がアレクサンダー大王だ。俺はソニー・リストンだ。ジャック・デンプシーだ。俺は彼らと同類だ。俺に並ぶ者はいない。攻めは強烈、防御は鉄壁、ひたすら獰猛だ。お前の心臓が欲しい。あいつの子どもたちを食らいたい。アッラーを称えよ!」