ベンチャーの成長には「信用」がキーになる

中学生ベンチャーキャピタリストに<br />リアリティがある時代がやってきた三田紀房(みた・のりふさ)1958年生まれ、岩手県北上市出身。明治大学政治経済学部卒業。代表作に『ドラゴン桜』『エンゼルバンク』『クロカン』『甲子園へ行こう!』など。『ドラゴン桜』で2005年第29回講談社漫画賞、平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。現在、「モーニング」「Dモーニング」(http://app.morningmanga.jp/)にて“投資”をテーマにした『インベスターZ』を、「ヤングマガジン」にて“高校野球”をテーマにした『砂の栄冠』を連載中。三田紀房オフィシャルサイト http://mitanorifusa.cork.mu/

三田 信用という点でいえば、ミドリムシの研究開発・商品化・販売をするユーグレナというベンチャーの出雲充社長にお会いして聞いた話があります。ミドリムシは絶対に健康にいいと確信した出雲社長が、これをぜひ商品にして売りたいと考えたところ、最初は誰も信用してくれなかった。ミドリムシを食べる? 体にいい? 何を言っているんですか、と。いくら説明してもわかってもらえない。そして経営的にもう持ちこたえられないギリギリに追い詰められたころ、伊藤忠の営業マンが訪ねてきて、「素晴らしい商品だから、ぜひウチも応援したい」と言ってきてくれた。伊藤忠が応援するミドリムシということになったら、みんな買ってくれるようになって急成長していったそうです。

磯崎 はい。信用してもらうための第一歩としては、「どう認知してもらうか」が鍵ですね。これは昔からそうで、例えば松下幸之助氏も、松下電器を大きくしていく過程で、「看板」というものに目を付けました。全国のビルの屋上や田んぼの中に積極的に看板を出すことで、企業やブランド名が人の脳裏に浸透していったんですね。現代では、FacebookやTwitterなどのSNSの口コミ(バイラル)で低コストで多くの人に認知を得る方法が出てきている一方で、ここ数年、テレビCMを打つベンチャーも増えてきました。企業やブランドの名を日本中の人が概ね「ああ、知ってる」という状態とするには、10億円弱の広告費を投入しなければいけないと言われていますが、ここ数年は日本でも、ベンチャーが10億円単位の投資を受けることも珍しくない環境になってきたわけです。

 認知度を上げ信用を得るためには、良い商品やサービスをつくるだけでなく、やはり「お金」が必要です。しかし、急速に成長していくベンチャーは常にお金が足りない状態なので、必要な資金を調達できる「大きなビジネスプラン」を描けるかどうか。そして、それをきちんと評価する投資家が増えるかどうか。ベンチャーが日本で質・量ともに増えていくカギを握っているのは、そこだと思います。

三田 ということは現状、そのあたりがうまくいっていないということですか?

磯崎 そうですね。日本では戦後ずっと高度成長期だったので、企業の資金調達の方法が銀行融資に偏っています。リスクが高く急成長を目指すベンチャーは、銀行融資で資金調達をするのには向いていません。そこで、株式などを使って資金調達する「エクイティ・ファイナンス」が必要になってくるのですが、それがあまり浸透していなかったのです。

 このため、海外のベンチャー・ファイナンスでは必ず使われる「優先株式」も、日本ではあまり使われていないんです。優先株式は、普通株式よりも投資家に有利な条件が付いた株式で、例えば、予定していたより低い金額でしか企業価値が評価されなくても、投資家が投資した額を優先的に回収することができたりします。「投資家に有利な条件が付いている」というと、投資を受けるベンチャーは警戒すると思いますが、こうした優先株式をうまく利用しないと、リスクの高いベンチャーが高い株価で資金を調達できるようにならないのです。