コンサルティング・ファームとの契約は
短期と長期、どちらがいいか?

並木 その際、パートナーとなるコンサルティング・ファームはどのように選んだのでしょうか。

辻村 当時、いろいろなところから提案を受けてはいました。その中で、私の所掌範囲から戦略に強いファームとお付き合いすることが多かったです。

並木 例えば1年間など、長期的な契約を結ぶこともありましたか?

辻村 いえ、契約はあくまでひとつのプロジェクトごと。3ヵ月~6ヵ月が平均的な契約期間でした。

通信事業者の真の強みを再確認できて<br />新サービスにつながったコンサルとの議論インタビュアーの並木裕太さん

並木 私はコンサルティングのこれからのあり方として、年単位など長期間の契約をクライアントと結ぶことも重要なのではないかと考えています。プロジェクトごとの契約では、経営者の抱えている課題認識の全体像をなかなか把握することができない。いくつかのプロジェクトを経て一定の信頼を得られた時点で、恒常的な関係に移行することもコンサルティングの質を向上させるうえでは有効なのではないか、と思うんです。

辻村 コンサルティングは、例えば弁護士のように属人的な性格の強いビジネスです。このテーマにはこの人、というように参加していただくコンサルタントをある程度指名してお願いすることが多かった。長期的な契約を結ぶとなると、新たに出てきた経営課題に対してそのコンサルタントがベストな人選とは限りませんし、どうしてもお互いの関係が緩んでくる。企業にしてみれば非常に大きな金額を支払っているわけですから、やはりプロジェクトベースで一定の緊張感を保ちながら仕事を進めるのがベストではないでしょうか。

並木 1990年代のドコモでは、辻村さんのいた経営企画部以外でもコンサルティング・ファームに仕事を依頼することは多かったんでしょうか。

辻村 グループ全体として見れば、複数のプロジェクトが同時に動いていました。例えばドコモショップの経営をどう効率化するかなど、主にオペレーション(実行)の部分でアドバイスもらっていたようですね。市場が急激に拡大していく一方で、社内ではとにかく人材が不足していて中途採用するにしても間に合わないような状態でした。そこでコンサルタントの方に入ってもらった。まさに「時間をお金で買う」ような活用方法です。

並木 そうした時、コンサルタントを自社スタッフとして採用してしまおう、という発想にはなりませんでしたか? 欧米では、コンサルタントがクライアント企業に転職するケースは比較的よくあるわけですが……。

辻村 そこまで踏み込むことはありませんでした。確かにアメリカなどでは、その人の旬な10年間だけ勤めてもらって、それから先はまた自分でジョブ・ホッピングしていくということがあるようです。1990年代の日本ではまだ、人材の流動性がそこまで高くありませんでした。また、外部の目としてのコンサルティング・ファームと、内部で組織を動かして施策を実行・推進する立場と、求められる人材の質も少し異なるかも知れません。