株式レポート
8月25日 18時0分
バックナンバー 著者・コラム紹介
マネックス証券

この先の相場は米国次第 - 広木隆「ストラテジーレポート」

身も蓋もない言い方

僕の特技は、身も蓋もない、ものの言い方をすることである。「男はつらいよ」の寅さんではないが、「それを言っちゃあ、おしまいよ」みたいなことを平気で言うのである。ストラテジストというのは相場の予想をするのが商売だが、相場の予想などというものは所詮、当たったり外れたり。だからできるだけ当たり障りのないようなことを縷々述べる、というのが一般的なストラテジストのスタイルである。つまり、「遠回しに」語るのである。それは、「身も蓋もない」もの言いの対極である。そう考えると僕のスタイルというのは、世間のストラテジストのなかでは極めて異端ということになる。

身も蓋もないことというのは、この先の相場について、「それはアメリカ次第です」ということである。

世界の中心はアメリカである。だからアメリカの状況をつぶさに見ていくことが一番大切なことである。

反論はあるだろう。確かに、アメリカはもはや「世界の警察官」ではない。国際社会の指導的立場にもない。昨今世界のいたるところで紛争が頻発し、地政学リスクが高まっているが、そのなかでアメリカの挙動がまったく有効に機能していないことを挙げるまでもない。世界有数の政治コンサルティング会社、ユーラシア・グループ代表のイアン・ブレマーが提唱した「Gゼロ」の世界観がいまや常識である。先進国によるG7も、新興国を加えたG20も機能しない、主導国なき世界。

それでも、やはり世界はアメリカを中心に回っていると思う。特に、経済や金融市場に関してはそうである。なぜなら、対抗軸がないからである。欧州もだめ、中国もだめ、日本は言うに及ばず、今はまだアジアも束になっても対抗軸にはならない。

基軸通貨の発行は覇権国の証であり特権である。基軸通貨の「シニョレッジ(通貨発行益)」は絶大であるからだ。「シニョレッジ」という言葉は、古代ローマの時代から使われているラテン語で、中世の封建領主をあらわらす単語が語源である。ドルが世界の基軸通貨の座を降りない限り、米国が世界の領主であり続ける。リーマン危機後、一時、ドルの凋落がまことしやかに語られた。ところが、どの通貨が基軸通貨の座を奪うというのだろう。ユーロか、円か、人民元か。あるいはSDR(特別引出権・IMFの準備資産)のようなものか。どれも基軸通貨になり得ない。そもそも大英帝国として世界に君臨したイギリスが、覇権国家の座を失ってからも以降50年間、英国ポンドは世界の基軸通貨であり続けたのである。

想定通り、円安の8月に

ドルが堅調である。22日のニューヨーク外為市場ではドル円は一時104円台に乗せたほか、主要通貨に対してもドルは値上がりした。主要6通貨に対する加重平均のドル・インデックスは82.456と昨年9月以来の高値をつけた(グラフ1)。



イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長はワイオミング州ジャクソンホールで行った講演で、労働市場に依然として緩み(スラック)が存在するものの、労働市場の回復速度が速まれば利上げ時期も前倒しとなる可能性を否定しなかった。これが通常よりもハト派色の薄い内容と受け止められたことがドル上昇の背景である。

僕は従前から、今年は例年見られるアノマリーと逆のパターンになっているので、「8月の円高」というアノマリーも今年は逆で、「円安の8月」になるだろう、と述べてきた。相場の予想などというものは所詮、当たったり外れたり。だから当たったときは「ここぞ!」とばかりに自慢しておく。

もちろん、アノマリーの逆効きだけを理由に円安を予想したわけではない。雇用統計をはじめとする米国の経済指標は米国経済の順調な改善を示しており、FRBの政策が金融緩和の出口に向かうことは明白であるからだ。8月下旬に開催されるジャクソンホールの経済シンポジウムの頃になれば、その点が強く市場で意識されドル高となるだろう、と指摘した。

世の中のストラテジストやエコノミストというのは、そのご託宣が有難がられてナンボの商売である。そうであるためには威厳を保って偉そうにしていないといけない。間違っても「当たった、当たった、わーい!わーい!」などと小躍りしたりしてはいけないのである。
これだけ円安が進んでも日本株の上昇ピッチは遅いように感じられる。それはすでに前もって日本株が上がっていたからである。4-6月期の決算が良好だったことなどを背景に7月末にかけて日経平均は1万5000円台の後半まで上昇していた。その時、為替市場ではドル円はまったく動意に乏しい展開だった(グラフ2)。



思い返せば今年の前半、日本株は底ばいの展開だった。その時ドルは円に対してそれほど売られず、為替が円高に振れていないのに日本株のパフォーマンスの悪化ぶりが疑問であった。日本株とドル円相場の相関は強い。しかし、それらは常時、完全に連動しているわけではないのである。但し、一定の期間では、つかず離れずの関係が見て取れる。今回は先行した日本株を追いかける格好で円安が進んだ。だから円安による日本株押し上げ効果がそれほど強くないのである。グラフ3から分かる通り、年初を起点にしてみれば、多少のラグを伴いながら、日経平均とドル円はほぼ同じような水準にいると言えよう。



低調な輸出関連株

ひとつ気になるところは、直近の円安を受けても、いわゆる輸出関連株のパフォーマンスがぱっとしない点である。ドル円が102円台半ばの膠着を放れはじめたのは先週のことだが、先週1週間の業種別パフォーマンスを見ると、値上がり率上位には証券、不動産、倉庫、食品、情報通信など円安メリットとは関係ない業種が散見される。

一方、自動車や電機の上昇率は0.8%、精密が1%弱でともにTOPIXの1.2%を下回る。代表的な輸出株でパフォーマンスが良かったのは2.5%上がった機械くらいである。

その背景は何か。それは僕が先週のレポート、「日本のマクロ経済と企業業績の今」で、日本の代表的な輸出産業だった電機・自動車は海外生産体制が進んだ結果、日本からの輸出が激減、「外需セクター」ではあってももはや「輸出セクター」ではない、と指摘したからである。そして旺盛な海外の設備投資需要を受けて輸出が伸びているのは機械くらいである、と述べた。円安がこれだけ進展しても電機・自動車のパフォーマンスがぱっとせず、機械だけが大幅上昇したのは、投資家が僕のレポートに賛同してくれた結果であろう。

と、いうのは冗談だが、トヨタの株価が6000円台にも届かず、週間では値下がりする弱い動きを見せつけられると、少し心配になったりもするのである。

これはもしかしたら、株式市場はこれ以上の円安を好感しない可能性を示唆しているのかもしれない。為替が経済や企業業績に与える効果というのはプラス・マイナス両面ある。円高にはデメリットもあるがメリットもある。それとまったく同じで円安にはメリットもあるがデメリットもあるのだ。
そして何よりも、前述の通り、メーカーの多くは生産拠点の海外移転を進めているため、円安が進めば進むほど海外での価格競争力が高くなる状況にはもはやない。円安はデメリットこそあれ、もうメリットはそれほどないのかもしれない。

驚くべきニュースがあった。今月5日、クィックの報道である。
<「これ以上の円安を望む声は聞かれない」。日銀で7月7日に開かれた支店長会議の終了後、トヨタ本社のお膝元である名古屋の支店長を務める梅森徹氏から飛び出したこの発言が市場関係者の耳目を集めたのは記憶に新しい>

もちろん円安になれば、海外で稼ぐ分の収益については為替差益が発生するだろう。しかし、それはあくまで会計上の利益。もしくは相場変動による利益。企業が自らの努力で稼ぎ出した利益ではない。

この先の相場展開

さて後1週間で8月も終わりである。ジャクソンホールの経済シンポジウムというイベントも通過し、この先の相場はどうなるか。米国次第である。

では、その米国はどうなるか。まず米国株はS&P500が2000ポイントの大台目前。ここまで来たら、大台に乗せなければ市場は気が済まないだろう。そしてS&P500が2000ポイントの大台を達成したら、景色がまた違ってくるだろう。米国の利上げ時期が取沙汰されるなかで、株価が大台を塗り替える。それは、相当、相場が強い証と捉えられ、リスク選好ムードが強まるだろう。

そのムードのなか、日本株も堅調持続というのがメインシナリオだ。但し、4-6月期の決算発表が出そろった直後で企業業績の見通しに大きな変化がない以上、日本株の大きな上昇も考えにくい。クィックコンセンサスに基づく日経平均のEPSは1100円だから、市場がそれを参照できればPER15倍で1万6500円も理論的にあり得るが、まだそこまで強気にはなり切れないだろう。日経予想のEPS、1040円とクィックコンセンサスとの按分、1070円のEPSを15倍に評価して、日経平均が1万6000円を超えてくる水準が、いいところではないか。

繰り返すが、兎にも角にも、米国次第というところである。

先週金曜日の日経に、米連邦準備理事会(FRB)元副議長のドナルド・コーン氏のインタビューが掲載された。氏は、現状のペースで米雇用改善が続けば、2015年前半にもFRBが利上げに踏み切る可能性があるとの見方を示した。

<FRBは雇用に強い確信が得られなければ利上げに動かない。市場の大勢は15年半ばの利上げを予想する。失業率は想定以上のテンポで下落し、物価上昇圧力も考えていたより強い。雇用、物価の改善がこのペースを保てれば利上げが来年半ばより早まる可能性がある>と述べている。

そのうえでコーン氏はこう付け加えるのを忘れなかった。「今後のデータ次第だ」。
「今後のデータ次第」 ― それはバーナンキ時代からFRB高官が、連綿と繰り返してきた言葉だ。今後のマーケットは米国次第。そしてその最大の鍵を握るのが利上げの時期。そして、それは「今後のデータ次第」。これこそ、身も蓋もない結論の最たるものである。


(チーフ・ストラテジスト 広木 隆)

■ご留意いただきたい事項
マネックス証券(以下当社)は、本レポートの内容につきその正確性や完全性について意見を表明し、また保証するものではございません。記載した情報、予想および判断は有価証券の購入、売却、デリバティブ取引、その他の取引を推奨し、勧誘するものではございません。当社が有価証券の価格の上昇又は下落について断定的判断を提供することはありません。
本レポートに掲載される内容は、コメント執筆時における筆者の見解・予測であり、当社の意見や予測をあらわすものではありません。また、提供する情報等は作成時現在のものであり、今後予告なしに変更又は削除されることがございます。
当画面でご案内している内容は、当社でお取扱している商品・サービス等に関連する場合がありますが、投資判断の参考となる情報の提供を目的としており、投資勧誘を目的として作成したものではございません。
当社は本レポートの内容に依拠してお客様が取った行動の結果に対し責任を負うものではございません。投資にかかる最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようお願いいたします。
本レポートの内容に関する一切の権利は当社にありますので、当社の事前の書面による了解なしに転用・複製・配布することはできません。当社でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等には価格の変動・金利の変動・為替の変動等により、投資元本を割り込み、損失が生じるおそれがあります。また、発行者の経営・財務状況の変化及びそれらに関する外部評価の変化等により、投資元本を割り込み、損失が生じるおそれがあります。信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が生じるおそれがあります。
なお、各商品毎の手数料等およびリスクなどの重要事項については、マネックス証券のウェブサイトの「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」(※)をよくお読みいただき、銘柄の選択、投資の最終決定は、ご自身のご判断で行ってください。
((※)https://info.monex.co.jp/policy/risk/index.html)

■利益相反に関する開示事項
当社は、契約に基づき、オリジナルレポートの提供を継続的に行うことに対する対価を契約先金融機関より包括的に得ておりますが、本レポートに対して個別に対価を得ているものではありません。レポート対象企業の選定は当社が独自の判断に基づき行っているものであり、契約先金融機関を含む第三者からの指定は一切受けておりません。レポート執筆者、並びに当社と本レポートの対象会社との間には、利益相反の関係はありません。

(マネックス証券)


マネックス証券
株式売買手数料(指値) 口座開設
10万円 30万円 50万円
100円 250円 450円
【マネックス証券のメリット】
日本株投資に役立つ「決算&業績予想」、信用取引ではリスク管理に役立つ信用取引自動決済発注サービス「みまもるくん」が便利。米国株は最低手数料5ドル(税抜)からお手軽に投資が可能で、米国ETFを通じて世界中に分散投資できる。投資先の調査、リスク管理、リスク分散など、じっくり腰をすえた大人の投資ができる証券会社と言えるだろう。一方、短期・中期のトレードに役立つツールもそろっている。逆指値ほか多彩な注文方法が利用できる上に、板発注が可能な高機能無料ツール「新マネックストレーダー」が進化中だ。日本株、米国株、先物取引についてロボットの投資判断を日々配信する「マネックスシグナル」も提供しており、スイングトレードに役立つ。
【関連記事】
◆AKB48の4人が株式投資とNISAにチャレンジ!「株」&「投資信託」で資産倍増を目指せ!~第1回 証券会社を選ぼう~
◆マネックス証券おすすめのポイントはココだ!~日本株手数料の低さ、ユニークな投資ツールが充実しているネット証券大手
マネックス証券の口座開設はこちら!

 

株主優待名人の桐谷さんお墨付きのネット証券!最新情報はコチラ!
ネット証券口座人気ランキングはコチラ!
NISA口座を徹底比較!はコチラ
株主優待おすすめ情報はコチラ!
優待名人・桐谷さんの株主優待情報はコチラ!

 

Special topics pr

ZAiオンラインPickUP
[クレジットカード・オブ・ザ・イヤー2017]2人の専門家が最優秀クレジットカードを決定! 2017年版、クレジットカードのおすすめはコレ! おすすめ!ネット証券を徹底比較!おすすめネット証券のポイント付き その 【株主優待】最新の株主優待情報更新中! アメリカン・エキスプレス・ゴールド・カードは、 本当は“ゴールド”ではなく“プラチナ”だった!? 日本初のゴールドカードの最高水準の付帯特典とは?
ランキング
1カ月
1週間
24時間
じぶん銀行住宅ローン 「アメリカン・エキスプレス・ゴールド・カード」付帯サービスはプラチナカード顔負け!最強ゴールドカード 実力を徹底検証  アメリカン・エキスプレス・スカイ・トラベラー・カード
ダイヤモンド・ザイ最新号のご案内
ダイヤモンド・ザイ最新号好評発売中!


 

12月号10月21日発売
定価730円(税込)
◆購入はコチラ!

Amazonで「ダイヤモンド・ザイ」最新号をご購入の場合はコチラ!楽天で「ダイヤモンド・ザイ」最新号をご購入の場合はコチラ!


【株で資産倍増計画![2018年版]】
1億円に早く近づく厳選56銘柄を公開
億超え投資家資産倍増の極意
・今後1年の日経平均の高値&安値を大予測
プロが提言! 2018年に日本株を買うべき理由! 
・変化の追い風を先読み! 新デフレ&新興国株
・好業績&割安! 上方修正期待株&成長割安株
・第4次産業革命! 独自技術を持つ部品株
新iPhone上がる株 25
利回りが大幅アップ!「長期優遇あり」の優待株
・今買うべき新興国株投資信託ベスト25
ネット証券のサービスを徹底比較! 
・怖いのは死亡・入院だけじゃない!
「働けない」を 助ける保険! 
iDeCo個人型確定拠出年金老後貧乏脱出!

「ダイヤモンド・ザイ」の定期購読をされる方はコチラ!

>>「最新号蔵出し記事」はこちら!

>>【お詫びと訂正】ダイヤモンド・ザイはコチラ

Apple Pay対応のクレジットカードで選ぶ! Apple Payに登録して得する高還元率カードはコレ! 堀江貴文や橘玲など人気の著者のメルマガ配信開始! 新築マンションランキング