豊臣秀吉と皇帝ナポレオンに共通する「勝ちやすきに勝つ」

 戦国の日本で天下を統一した豊臣秀吉と、フランス革命の時代に出現し、ヨーロッパ中を席巻した皇帝ナポレオンにはある共通点があります。それは「戦場において優勢になる地点をひたすら求めて戦った」ことです。豊臣秀吉の戦闘法について、田岡氏は著作で次のように書いています。

「味方の兵力数と比較して、敵が一兵でも多い場合には絶対に戦いをしないという鉄則を守った。(中略)たとえば、小田原の北条氏をたたいたときには、秀吉は実に30万の兵力を投入した。これに対して北条氏は、わずか4万であった。したがって、数日で戦闘は終わってしまったようである」(同書より)

 欧州大陸のほとんどを占領したナポレオンも同様です。彼はイタリア遠征でも、自軍が有利にならない陣地で決して戦闘を始めませんでした。重要な攻略拠点だと思われる場所ではなく、敵より多く味方が集結できる場所が発見できるまで、移動を続けることを選んだのです。フランス軍は局地戦で相対優位を選んで連勝を続け、最後はヨーロッパを席巻する大軍に膨れ上がります。

 最古の兵法書である『孫子』にも、10倍の兵力があれば敵を囲み、5倍の兵力があれば攻めまくる、兵力が劣っていれば逃げるべきであるとの記述があります。優勝劣敗、多いほうが勝ち、少ないほうが負けることは、戦闘の永遠の真理の一つです。

 それを公式にまとめたのがフレデリック・ランチェスターであり、ビジネスに使える経営戦略に落とし込んだのが、田岡氏をはじめとする日本の研究者たちだったのです。

集団で競うときの支配的な力学と個人の感情を切り離す

 古代から現代まで、戦いは人の気持ちを高揚させる状態であり、ともすれば感情が先走ることになりがちです。しかし、ランチェスターの法則が示すことは、集団と集団が激突する場面では、明確な数理モデルが支配する状況が存在することです。

 そのため、個人の熱意や意欲と数理モデルの二つが支配する場面を、明確に区別して、両者が共に最大限の効果を発揮する状態をつくり上げることが勝利に不可欠なのです。

※この記事は、書籍『戦略の教室』の原稿を一部加筆・修正して掲載しています。


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著者紹介

3分でわかる『ランチェスターの法則』<br />「科学的な数理モデルで“弱くても勝つ”」

鈴木博毅(すずき・ひろき)
1972年生まれ。慶応義塾大学総合政策学部卒。ビジネス戦略、組織論、マーケテイングコンサルタント。MPS Consulting代表。貿易商社にてカナダ・豪州の資源輸入業務に従事。その後国内コンサルティング会社に勤務し、2001年に独立。戦略論や企業史を分析し、新たなイノベーションのヒントを探ることをライフワークとしている。日本的組織論の名著『失敗の本質』をわかりやすく現代ビジネスマン向けにエッセンス化した『「超」入門 失敗の本質』(ダイヤモンド社)は、戦略とイノベーションの構造を新たな切り口で学べる書籍として14万部を超えるベストセラーとなる。その他の著書に『企業変革 入門』『ガンダムが教えてくれたこと』『シャアに学ぶ逆境に克つ仕事術』(すべて日本実業出版社) 、『空気を変えて思いどおりに人を動かす方法』(マガジンハウス社)などがある。