「決して説明しない。決して言い訳しない」。

 これはバーナンキFRB議長が11月14日の講演で紹介したモンタギュー・ノーマン・イングランド銀行総裁(1921~44年在任)のモットーである。

 彼を含む当時の多くの中央銀行家は、政策運営には神秘性が必要と考えていた。しかし、現代においては「公僕である中央銀行家は、国民や議会に説明責任を果たさなければならない」と考えられるようになった。バーナンキも主張するように、透明性の向上が、金融政策の効果を高める面がある。

 バーナンキは上記の講演で、議長就任以来の懸案事項だったコミュニケーション政策の見直しを発表した。経済学者時代に強く主張していたインフレ目標の採用は当面断念された。その代わり、FRB理事と地区連銀総裁による成長率、失業率、インフレ率の予想の公表が従来の年2回から年4回となった。またその予測期間は2年から3年へと拡大された。

 3年先のインフレ率予想は、事実上、各FRB幹部が望ましいと考えるインフレ率に近いものが提示されるだろう。なぜなら、各幹部は、適切な政策金利運営が今後3年間なされることを前提に予想をつくるからである(3年のあいだに政策金利がどのようなパスを描くかという前提は各自異なる)。

 つまり、今回の改革は、インフレ目標のエッセンスを“隠し味”として含んでいるともいえる。

 このバーナンキの講演には、これまで日本銀行が説明してきたロジックと驚くほど似たものが多数含まれていた。組織として一本化した予想を公表しないのは、FRB幹部の多様な考え方を尊重するほうが政策決定の質を高めるからだという(日銀の経済予測や「物価安定の理解」も、九人の政策委員の考えがレンジで表されている)。

 また、FRBはコアPCE価格指数を重視しつつも、エネルギーや食品を含む総合指数や、他の物価統計も併せてモニターし、単独の指標で物価の状態を判断することは避けるという。

 インフレ目標を採用している国のほとんどは、実際はインフレ率だけでなく、成長、雇用、金融システムの安定なども考慮した柔軟な政策運営を行なっている、とバーナンキは講演で述べた(これも日銀がよく言う話)。サブプライム問題で住宅市場やクレジット市場に混乱が生じている局面では、特定の物価統計を重視する政策は支持を得られにくい面もあるだろう。

 なお、今回の変更でFRB幹部の経済予測期間が3年となったことで、現在2年である日銀政策委員会の予測が先行きどうなっていくのかが注目されるところである。
(東短リサーチ取締役 加藤 出)