朝倉 世の中の仕事は大きく2つ、フロント側とバック側に分けられると思うんです。フロント側というのはいわゆる事業会社など、リスクを負って顧客を創造し、自社の事業を広げて行くことを主目的とした立場。対してバック側はそうしたフロント側の事業遂行が成功するようにサポートする立場。士業や金融業、コンサルティング業等がそれに当ります。

 コンサルタントの仕事はバック側であり、自社の事業を広げることではなく、クライアントが抱える課題に対する最善の解を出すことに専門特化した職業です。良い悪いといった話ではなく嗜好性の問題ですが、僕はフロント側にいるのが好きな性格なので、コンサルティングの結果として実際何が起こったのかが見えにくい点には違和感がありました。

経営者を目指したいなら
コンサル・ファームに長居は禁物

並木 学生時代に起業したネイキッドテクノロジーに戻ったのはなぜですか?

朝倉 マッキンゼーにいたのは2007~2010年だったんですが、特に2008年以降は景気が落ち込んだこともあり、コスト削減のような「守り」の仕事が多かった。僕としては縮んでいくパイをどう維持するかということより、パイを拡大していく仕事に興味があった。そっちの方が絶対に楽しいだろうなと思ってベンチャーに行くことにしました。

 ところがネイキッドテクノロジーに戻ってまず最初に資金繰り表をつくってみたら、このままいくと数ヵ月後にはキャッシュアウトしてしまうような経営状況で……。これはまずいぞ、と。そこでこれは自分が何とかしなきゃまずい、と思ってしまったんですよね。パイを広げる仕事をしたくてやってきたはずなのに、気づいたら撤退戦をやることになってしまった。

並木 その頃のネイキッドテクノロジーはどんな事業をしていたんでしょうか。

経営してみて痛感する、ブレない「心」と<br />静かな支えとなるグレイヘア・コンサルタントの価値インタビュアーの並木裕太さん

朝倉 主にガラケーのミドルウェアをつくっていました。当時は、ドコモ、au、ソフトバンクとキャリアによってアプリ開発の言語が異なっていたり、同じ言語であっても携帯電話のメーカーごとに挙動が違っていたりするような状況で、それを共通化するミドルウェアをつくっていたんです。技術力はあったので資金調達をして仕切り直すことも検討しましたが、結局、このタイミングで区切りをつけて会社を売却することにしました。

並木 会社を売る過程で、コンサル時代の経験は活きましたか?

朝倉 きたものもありますが、むしろ、コンサルティング・ファームで学ばなかったことの多さに気づかされました。例えば、戦略系のコンサルティング・ファームの仕事では法律を読むことなんてまずありませんが、売却交渉の中では法律知識が非常に求められる。P/L(損益計算書)やキャッシュフローは分かっても、バランスシート(貸借対照表。B/S)や税務に触れたことはなかったですし、交渉事自体、コンサルタントとしては全く経験したことがありませんでした。

 経営コンサルタントだと胸を張ってやってきたのに、会社を実際に機能させるうえで必要な、法律や会計、税務や交渉事といった知識や経験が欠如していたことを痛感させられたんです。コンサルタントというのは、純粋理性の世界でバリューを出すことに特化した専門業だと感じています。

並木 戦略なんて、実は健康な会社をつくるためのほんの一部に過ぎない。

朝倉 そうですね。コンサルティング・ファームの仕事は、ファクトベースでロジカルに戦略を立てていく感じ。もちろんこの部分は非常に重要ではありますが、本当の経営ではそれ以外の要素が占める部分があまりにも大きい。ハードスキルだけでなく人事や政治といったソフトな部分も極めて重要。経営者予備軍の士官学校としてコンサルティング・ファームは一定の役割を果たしていると思いますが、経営者を目指すという目的意識が明確なのであれば、あまり長居しすぎない方がよいのかなと思います。もちろんコンサルタントとしての技量を究めたいなら話は別です。