フィリピン 2014年9月23日

老後はフィリピンで介護生活を送れるのか
フィリピン介護ビジネスの現状

フィリピン在住17年。元・フィリピン退職庁(PRA)ジャパンデスクで、現在は「退職者のためのなんでも相談所」を運営する志賀さんのフィリピンレポート。フィリピンでの介護生活を希望する日本高齢者は多い。では、実際問題として日本人の介護生活は可能なのか? 成功の鍵は? フィリピンを丸ごと受け入れる準備があなたにはありますか?

 先日、フィリピンの介護施設にお父さんを入居させるので、退職ビザの世話をして欲しいとの依頼があった。軽度の認知症だが、お母さんとの2人暮しで、子どもたちはそれぞれの生活があって一緒に住んで面倒を見ることはできない。高齢のお母さんは介護疲れでほとんどノイローゼで、もはや我慢の限界だという。もちろん訪問介護のサービスをも受けているが、体格の良い大柄の夫を高齢の身ひとつで24時間、休みなしで世話するのは容易なことではない。

 公共の施設を当たってみたが、まだ入院させるほどの認知症とはいえないと門前払いをくらい、申し込みさえもできなかった。特養などはどこも数百~数千人の順番待ちで問題外(待機者は全国で42万人にのぼる)。私立の施設に入れようものなら、経済的に子どもたちすべての家計が成り立たなくなってしまう。そこでたどり着いたのが、フィリピンでの介護だ。

 フィリピンでは唯一ともいえる外国人向けの介護施設を見つけ、そこに入居してもらうことになった。1カ月だけと言って、だましだまし連れてきたそうだ。認知症の親を日本で家族が独力で面倒を見ることは並大抵なことではなく、家庭崩壊の危機に直面せざるをえない。その解がフィリピンにあったのだ。

フィリピンの介護施設の現状は?

 先ごろ、大学の先生がフィリピンの介護施設の現状についてヒアリングにやってきた。私の回答は以下の通りだ。

1)フィリピンでは介護施設は成り立たない。現にいくつもの日本人向け介護施設がつくられたものの、どれも運営が成り立っていない。アモーレの里のように、立派な施設をつくったにもかかわらず運営をスタートさせることさえできなかったケースもある。

2)フィリピンには介護ビジネスの市場はなく、身寄りのない高齢者を収容する公的な施設があるものの、とても日本人が入居できるような代物ではない。ローカルの需要がないのだから、日本から要介護者が大挙してやってこないかぎり、介護施設をつくっても運営していくことができない。

3)介護老人を抱えてどんなに惨憺たる状況になったとしても、自分の親をフィリピンに送り出すという発想を持つことができる家庭はめったにない。自分自身がフィリピンで暮らそうと決意することさえも、よほどの勇気と努力が必要なのだ。

4)今までつくられてきた日本人向けの介護施設は、大きな投資をともなうだけに意外と高額。不動産投資(部屋への入居権の購入)とセットになっているので数百万円の初期費用が必要で、日本の特養並みというわけにはいかなかった。そのうえ国の補助も介護保険も利かないから大きなメリットを見出すことができなかった。

5)現在、フィリピンで唯一の介護施設とされるWellness Place (ケソン・シティ)は借家と住み込みの介護学生などを利用してグループホーム的に運営して、比較的安価な価格でサービスを提供している(介護の程度により月額5~8万ペソ。日本円で月額12~19万円)。ここは外国人や海外在住のフィリピン人の親などを収容している希少な施設だ。

 Wellness Placeは一般住宅を借り上げて介護施設にしているので、高級住宅街に住んでいる気分で違和感がない。それに要介護の老人だけが入居しているわけではなく、一軒に3~4人お年よりが介護士に世話されて暮らしているという、いかにも普通の生活がここにはある。ビレッジ内には老人医療を専門とする医師であり運営者のDr. Delizoが住んでいるので医療的にも安心だ。

Wellness Placeで介護を受ける老人【撮影/AIC】

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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