変化のスピードが大きく加速したというのは、私が本で論じたもうひとつの現象、すなわち個人と組織の関係の変化にも言えることです。

 2001年当時すでに、アメリカでは雇用の保障が10数年かけて弱まりつつあり、そこへITバブル崩壊の打撃が加わりました。一方、日本は長期の経済停滞に悩まされていました。しかし、2008年のリーマンショックに端を発した金融危機と、その後の長く深刻な景気後退が雇用のあり方におよぼした影響は、その比ではありません。

 2001年の時点では、終身雇用の崩壊を信じていなかった人もいたかもしれませんが、もはやそれを疑う人はいないでしょう。今回の大不況を境に、雇われずに働く人はますます増えています──自発的な選択か、不本意な結果かはともかく。

組織に働く人たちであっても
フリーエージェント的に発想し、行動しよう

 日本でもアメリカでも、いまもって企業や政府機関などの大組織で働いている人のほうが多いことは事実です。しかし意外なことに、フリーエージェント社会の到来による影響を最も強く受けているのは、組織で働く人たちなのかもしれません。

 この数十年の間に雇用主から働き手へとリスクが移され、老後の蓄えや技能の習得など、多くのことについて個人が自分で責任をもたなくてはならなくなりました。リスクが増え、終身雇用が崩れつつある時代に、働く人たちはみな、これまでとは異なる態度を求められています。銀行や保険会社、政府機関などに勤めている人でも、フリージェント的な発想をし、将来の計画を立てなくてはならないのです。新しいチャンスを見つけ、人的ネットワークを築き、能力を磨いていかなくてはなりません。いまや、どこで働いているかに関係なく、誰もがフリーエージェントなのです。

 フリーエージェント経済の最も大きな特徴は、「才能ある人は組織を必要としなくても、組織のほうが才能ある人を必要とする」という点です。この傾向は、10年前よりもいっそう強まっています。その結果として、強力なテクノロジーの普及にも後押しされて、需要のあるスキルをもつ人たちには、とてつもなく大きなチャンスが開けはじめています。今後は、こうした働き方の革命にすべての人が参加できるようにすることが日米両国で大きな課題になるでしょう。

 10年以上前に出版した本がいまも日本の読者に読まれ続けていることを、とてもうれしく思っています。新しい働き方と新しい生き方を切り開く人が増えるのにともない、さらに10年後に、企業の取締役会議室に始まり、個人の在宅オフィスにいたるまで、日本とアメリカの社会がどのように変わっているか見るのが本当に楽しみです。


新刊のご案内

いまやどこで働いているかに関係なく<br />誰もがフリーエージェントだダニエル・ピンク著、池村千秋訳8/29刊行、定価1800円税別

フリーエージェント社会の到来 新装版
 組織に雇われない新しい働き方

これからの働き方が、ここにあります!
            ちきりんさん推薦

高度成長期に王道とされた「大企業に定年まで務める」という組織に縛られた働き方は、過去のものになりつつあります。本書は、個人の知恵とインターネットを頼りに独立して働く“フリーエージェント”の実態を明らかにし、彼らの存在感が増すことで変わっていく個人の価値観や社会の仕組みを含めて描かれた社会論です。初版は2002年刊行ながら、その分析や示唆は色褪せることなく、私たちに多くの気づきを与えてくれます。新装版へ新たに書き下ろしていただいた、東京大学社会学研究所の玄田有史教授の手による序文からグイグイ引き込まれます!

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