高齢者が幸福に暮らすためのヒント

 フィアさんは高齢者が長く暮らした家ではない場所でも、家のように感じる要素はなにか調査を行いました。結果、彼らの家感を作るものは、建築ではなく“建物”という概念にあることがわかりました。

 建築とは何か辞書を引くと、『家屋などの建物を、土台から作り上げること』とあります。一方で、建物は『人が住んだり、物を入れたり、仕事をするために建てたもの』とあります。

 調査でわかったのは、高齢者が自分たちの住む建物についてそれぞれが何かしらの価値をもたらすことが家感をつくる上でカギだということでした。彼らがもたらしたいと望む価値とは、実際に住んだり、物を入れたり、仕事をするための建物に自分達の声が反映されていることでした。

 デンマークで高齢者住宅をデザインするとき、企画段階でユーザーである高齢者の意見を取り入れるものの、最終段階においても実際にそこに住む人の意見を取り入れる機会を増やすことが必要だとフィアさんは言います。

 例えば、高齢者住宅のデザインを考えるときにユーザー観点から、実際に住む人が過去にどんな家に住んでいたのか、デザイン性のある家具に囲まれて暮らしていたのか、それともIKEAの家具の家に住んでいたのか、高齢者の年齢や病名よりもその人それぞれの家の作り方に着目をすることが大切だそうです。

 第4回目の記事「デンマーク人はなぜ家具のセンスが良いのか?」で「デンマークで自分に合った家具を見つけることは、個性を追求する旅に出掛けること」と書きました。デンマーク人に家具について聞くのは、彼らの人生観や価値観を知ることでもあるのです。

 ただ人生観や価値観は、時間が経つと変わる可能性もあります。デザインの最終段階で高齢者の意見を取り入れながら、建物ができ上がったあとも、なんらかの形で変化する価値観に対応する柔軟性も必要でしょう。

 時が経っても変化する価値観に対応できる高齢者住宅とは何か考えていたときに、デンマーク人の友人の紹介である素敵な高齢者住宅に出会いました。